6月14日の7時46分に、日本航空向けA350-900の初号機(JA01XJ)が羽田空港に着陸した(到着時刻は7時56分)。これから運航乗務員、客室乗務員、整備員などを対象とする慣熟を実施した上で、9月1日から国内線に就航する予定になっている。
初物いろいろ
日本航空は、国内線の幹線と国際線の主力になっているボーイング777の後継機として、エアバスA350XWBの導入を決定した。A350-900が18機、A350-1000が13機、合計31機という内訳で、今回到着した初号機は国内線向けのA350-900である。
実は今回のA350XWBという機体、日本航空にとっては「初物」が多い。到着後に行われたセレモニーの席で、赤坂祐二社長のスピーチに出てきたポイントとして、以下がある。
そもそもエアバス機の導入が初物である (ただし、合併前の日本エアシステムはエアバスA300を運用していた)。筆者ぐらいの年代だと、「日本航空と言えば、アメリカ製の機体にプラット&ホイットニーのエンジン」という先入観があり、ゼネラル・エレクトリックのエンジンを導入するというだけで大騒ぎ(?)になったものだ。
しかし今回は、日本航空では初めてとなるエアバス機の導入に踏み切った。植木義晴会長は「(実機に乗って飛んで来てみて)この選択は正しかったと思いました」と述べていた。
しかもエンジンが、ロールス・ロイス製のトレントXWB。ロールス・ロイス製のエンジンも、日本航空にとっては初物。もっとも、A350XWBにはトレントXWB以外の選択肢はないので、機体が決まれば自動的にエンジンも決まってしまうのだが。
(細かいことをいうと、日本航空と合併する前の東亜国内航空はYS-11を使っていて、これのエンジンはロールス・ロイス製の「ダート」だったが、そこは大目に見ていただきたい)
そして、ログブック。セレモニーの際に、フェリーしてきた初号機に同乗していた植木会長から赤坂社長に、ログブックを手渡す場面があった。
ログブックはパイロットと機体の双方にあるが、機体のログブックとは運航や整備の記録をつけていくものである。だからログブックとは、整備員と運航乗務員を結ぶ情報共有の手段でもある。パイロットは整備員に機体の状態を伝えるために、整備員はパイロットに整備状況を伝えるために、ログブックを使う。
ところが、手渡されたログブックはいわば「象徴」。本番の運航では、従来のような紙のログブックではなく、電子化されたログブックを使用する。これもまた、日本航空ではA350が初めてだという。
そして、赤坂社長は整備畑の出身で、植木会長は運航畑の出身だ。運航畑の会長から整備畑の社長にログブックを手渡すという演出には、単なるセレモニーを越えたものが感じられた、といったら言い過ぎだろうか。
もちろん、事前に情報を得たり、フランスに人を派遣したりして学習や訓練は進めてきているわけだが、やはり現物が日本に来てからも新機種への慣熟は欠かせない。まして、A350は前述のように、日本航空にとっては「初物」が多いのだ。着実に作業を進めて、安定運航を実現してくれるものと期待したい。
フランスで作って日本にフェリー
エアバスは御存じの通り、ヨーロッパの複数の国にまたがる企業体であり、機体の製作も複数の国で分担している。胴体、尾翼、主翼などを個別に製作した後で、フランス南部のツールーズにある最終組立ラインに持ち込み、組み立てと艤装と塗装を行う体制だ。
したがって、完成した機体の試験飛行もフランス国内で実施することになる。しかし、いくら納入前の機体とはいえ、どこの誰だかわからない機体がいきなりフランスの上空に現れるのでは、具合が悪い。かといって、まだ納入前の機体は所有権がメーカー側にあるから、そこで日本航空の機体として登録するのも妙だ。
そこで、仮にフランスの機体として登録を行った上で、試験飛行を実施する。そして引き渡しが完了した後で改めて、日本の機体として日本の当局に登録するという手順を踏んでいる。
なぜ登録記号の話を持ち出したかというと、この日本航空向けの初号機もまた、フランス国内で試験飛行を実施している段階では、フランスの登録記号をつけていたからだ。その様子は、日本航空の公式Twitterアカウントに載っていた写真で確認できる。
つまり、納入前は「F-WZHF」という登録記号で、日本航空に引き渡された後で「JA01XJ」になったのである。この登録記号の話、書いてみたら意外と長くなりそうだったので、別の機会に詳しく取り上げてみることにしたい。
ちなみに、「F-WZHF」の下に書いてある「321」は「エアバスA321」……ではなくて「MSN321」。MSNとはManufacturer's Serial Number、要するに機種ごとにつけられる連番である。