台TrendForceによれば、電気自動車(EV)はすでに将来の自動車産業の成長のけん引役となっており、その出荷台数は2021年には2018年の2倍にあたる800万台を超えると予想されるという。

そうしたEVにおいてバッテリやエンジン/モータを除いた主要部品の中でもIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は重要な部品の1つとみなされている。EVにおけるIGBT搭載量は、従来型の内燃機関による自動車に比べ、5~10倍多く採用されているためで、今後の世界的なEVへの引き合いの高まりに併せてIGBT市場も成長し、2020年に50億1100万ドル、2021年には52億4900万ドル規模に達すると同社では予測している。

  • IGBT

    IGBT市場規模の推移と電気自動車の出荷台数推移。2019年以降は予測 (出所:TrendForce)

TrendForceのアナリストであるChris Hsu氏は、「EVは主に5種類のIGBTデバイスを使用している。それらは、インバータ、DC/ACコンバータ、オンボード充電器、エネルギー監視システム、その他の補助システムである。その中で特にDC/ACコンバータ、およびオンボード充電器はEVの性能を支配するものと言えるため、もっとも重要なコンポーネントとなっている。IGBTを採用するコンポーネントやモジュールは、高電圧、高電力の動作条件を満たすことができるため、ほかのパワーデバイスから置き換えに適していることから、今後、需要はますます高まっていくことが期待されるほか、ウォーターポンプやACコンプレッサーなどの補助システムも、高電圧バッテリーの活用に向け、従来のパワー半導体からIGBTに切り替える必要があり、そうした需要が市場成長のけん引役になる」と市場の動きを見ている。

また、サプライチェーンとしてEV向けIGBTの主なIDM(垂直統合企業:設計から製造まで行う半導体メーカー)は、Infineon Technologies、ON Semiconductor、富士電機、STMicroelectronics、デンソー、BYDなどで、中でもInfineonは、IGBTコンポーネントとIGBTモジュールの両方を提供するIGBTのトップメーカーとして市場シェア30%を有しているほか、デンソーとBYDはEV向けに独自のIGBT部品を設計および製造してする数少ない自動車メーカーという位置づけとなっている。

さらに台湾のVISやMosel Vitelicなどのファウンドリは、海外のIDMからIGBTを受託製造しているのに対して、中国のSMICやHua Hongなどのファウンドリは国内の需要を満たすための受託製造を行っている。EV向けIGBTモジュール提供に強みを発揮している企業としては、三菱電機、SEMIKRON、Danfoss、CRRCなどが挙げられる。

TrendForceの調べによると、EVの出荷台数は、2015年までは前年比1桁%の成長に留まっていたが、2016年には同28%増と2桁成長を達成して以降、2017年、2018年もそれぞれ同29%増、同27%増と2桁成長を維持し続けており、これに併せるようにIGBT市場も2018年に同16%増の47億500万ドルまで拡大を続けている。

しかし現在、米中貿易戦争の先行き不透明感、メキシコからの違法移民流入に対するメキシコへの関税強化、英国のEU離脱問題、中東の政情不安などさまざまな要因から、世界的に自動車販売は低迷している。特に、世界最大のEV市場である中国では、販売実績が予想を下回る事態となっており、2019年後半も低迷が続く可能性があることから、IGBT市場もその影響を受ける可能性があるとTrendForceでは見ており、2019年のIGBT市場については、同3%増の48億3600万ドル程度の低い成長率になると予測している。