九州南部などに分布するソテツの雄花は昆虫を誘うために匂いを発散させる。そのために雄花が発熱することは知られていたが、発熱する仕組みはよく分かっていなかった。宮崎大学などの研究グループはこのほど、ソテツの雄花が発熱する様子をサーモグラフィーカメラで捉えることに成功、発熱の仕組みの一端を明らかにしたと発表した。研究論文は国際的な植物学専門誌「Plant Physiology」に掲載され、鮮やかな撮影画像が表紙を飾った。発熱の様子を捉えたのは世界で初めてだという

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    発熱するソテツの雄花(左)。右はサーモグラフィーカメラで撮影した雄花。発熱により、雄花が赤く光っている。この画像が表紙に使われた(提供・宮崎大学/宮崎大学などの研究グループ)

研究グループは、宮崎大学農学部植物生産環境科学科の稲葉靖子准教授のほか、理化学研究所環境資源科学研究センターや九州大学大学院医学研究院の研究者も参加した。

ソテツは小型の昆虫に雄花から雌花へ花粉を運んでもらっている。研究グループによると、ソテツの雄花の発熱は揮発性の匂い成分を効率よく遠くに飛散させて、昆虫を誘い込む役割がある。稲葉准教授らは、「Cycas revoluta(サイカス・レボルタ)」と呼ばれる日本固有種のソテツを温度の違いを色で識別できるサーモグラフィーカメラで観察した。

その結果、雄花は周囲より11.5度も熱くなることを確認してその様子を撮影することに成功。 昆虫を誘い込むための匂い成分を飛散させる“正体”が明らかになった。また、発熱組織には大きなミトコンドリアがあった。ミトコンドリアは細胞呼吸の場の役割をしており、酸素を取り込む呼吸のプロセスで発熱しているらしいことも分かったという。

研究グループは「今後、花の発熱の仕組みの理解が進めば、寒冷環境で農作物の成長を促進したり、花の匂い成分の合成や飛散を助けたりする技術の開発につながる」と期待している。

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