Dassault Systemsの日本法人ダッソー・システムズは6月5日、都内で事業戦略説明会を開催。その中で、今年度から新卒採用を積極的に行っていくことや、教育機関との連携による3D CADデータを中心に変化するものづくり業界をけん引していくことができる人財育成への取り組みなど、未来を見据えた取り組みを強化していることを明らかにした。
ダッソー・システムズ(日本法人)は1994年に設立され、今年は設立25周年の記念の年となる。設立当初はIBMとのグローバルパートナーシップの枠組みの中で事業を行っていたが、2009年にグローバルパートナーシップの新たなステップとして、IBMのPLM版倍事業部門を約6億ドルで買収することを発表。2010年よりダッソーも日本法人として、エンジニアリングのみならず、営業やマーケティング機能を統合する形で事業規模を拡大。現在は700名規模まで人員は拡大し、かつそうした社内で働く社員も決して日本人のみならず、19の国籍を持つほどとダイバシティが推進されている。若手人材の採用や育成に向けた取り組みもそうしたダイバシティとしての取り組みの一環となるほか、同社としても、ものづくりプロセスの進化が急激に進む現在、将来、そうした進化したものづくり産業をけん引していく人材の育成が重要であるという認識を抱くようになってきたことがある。
同社代表取締役社長の山賀裕二氏は、「(IoTというキーワードを出すまでもなく)製品がコネクテッド化していく。その意味するところは、メカはメカ、エレキはエレキという独立した存在ではなく、エレメカ連携は必須となるし、かつソフトウェアも入ってくる。さらにユーザーや市場からの声がいろいろな形で入ってくる。それが新たな製品のアイデアにつながるようになることが期待されるのが未来の製品開発プロセスであり、その中心にデジタルツインを置いて、そうした各種要素がコラボレーションしていくことで、みなが納得するものを作り上げることができるようにある。そうすれば、後段の工程からの手戻りが減らせるようになり、製品の開発期間の短縮を図ることができるようになる」と、現在のものづくり産業の動きを説明。そうした状況を踏まえ、デジタルツインを中心としたコラボの輪を広げていく動きの必要性が高まってきたことを強調する。
こうした動きに併せるために、同社でもソリューションの拡充を図り、各種ツールの強化を進めるほか、対応産業分野のすそ野拡大を図っている。また、2月に開催されたSOLIDWORKS WORLDでは、中堅中小企業(SMB)向けソリューションとして、「3DEXPERIENCE.WORKS」を発表。3DEXPERIENCEプラットフォームとして提供されるさまざまなソリューションをSMB向けに最適化し、「.WORKS」という冠をつけた形で提供していくことを明らかにしている。「日本の製造業の9割以上がSMB。産業界の未来を考えたとき、そうしたSMBの効率化のみならず、新たなビジネスモデルへと発展していってもらうための最初の重要なイベントが.WORKSの取り組み。日本では2020年の提供開始に向けて準備を進めている」(同)とする。
山賀氏が繰り返し強調していたのが、「未来のものづくり産業」という言葉。これまでの流れを踏まえると、3Dを活用したものづくりの世界、というのが大まかな理解となるが、同氏は「3Dの活用は技術の議論ではなく、ビジネスの議論」と説明する。「今後、3年先、5年先の未来を見据えたとき、企業ごとに立ちはだかるビジネスのチャレンジがたくさんある。世界の経済状況も大きく変わろうとしている中、リスクも出てくるし、チャンスも生まれてくる。そうした中で、企業が何を目指していくのか。その中で競争力を確保し、持続的な成長を成し遂げるための方向性を確保することが重要になる。その中で3Dモデルの活用や、新たなコラボの在り方が求められる流れになってきた」と現在の状況を説明。これまでは生産の各プロセスの担当エンジニアと連携することが多かったが、現在、さらに上層となる経営陣などとも話をする機会が増えてきたとする。
そのため、そうした3Dについての理解が不足している経営者などに、実際にどういうものかを体感してもらうことを目的とした拠点「3DEXPERIENCEエグゼクティブ・センター」を、同社本社オフィスが設置されている東京・大崎に2019年7月をめどに開設する予定で、本社が持つ、それぞれの産業の今後のビジネス変革に向けたシナリオをローカライズした情報なども含め、3Dの活用に関するさまざまなものの提供を目指していくという。
同氏は、「2019年以降、顧客のビジネス変革のパートナーとなる活動を強めていく」とも説明。あくまでも本社はフランスだが、日本法人として、日本の社会の発展に対して、どのように貢献していくかを見据えた取り組みを推進していくとしており、SMBへの支援強化や3Dへの経営層への理解促進といった活動はその第一歩になるとする。
加えて、「Worksforce if the Future」というキーワードも重要になっていくことも強調する。これこそが、同社の人財育成に向けた取り組みを示す言葉で、同氏は「一言で言えば、未来の日本を支える人財を育成していこうという取り組み」と表現。具体的には、現在1186の教育機関で3D CADなどを中心に活用してもらっているプログラムをさらに拡大し、すでに同社が世界15か所で進めている「ラーニングラボ」と呼ぶ人財育成に関するプログラムを日本でも麻生建築&デザイン専門学校と協力して2019年内に開設する予定であるとするほか、大学生50名を対象としたハッカソン・プログラムを7月29-31日にかけて実施するなど、さまざまな取り組みへと拡大を図っていくとする。
こうした人財育成は、単なる3D CADやPLMといったスキルを持った人材を育てる、というだけではない。激変する世界の動きに対応でき、自身で判断したり、プロジェクトを遂行する能力、さまざまなステークホルダーとスムーズにやりとりをすることができるコミュニケーション能力など、マインドそのものの育成が含まれているという。
すでにこうした取り組みは海外では成功事例も出てきており、産官学の連携による枠組みというさらに一歩踏み込んだ取り組みでの成功例も出てきているとのことで、日本でもそうした広い視野をもって、日本の顧客ひいては日本そのものの発展に貢献していける企業になっていきたいとしていた。