author=小松原綾
電通国際情報サービス(以下、ISID)のオープンイノベーションラボ(以下、イノラボ)は5月29日、電通と共同で、熟練の職人が持つ技能継承が課題となっている様々な産業において、その技能を人工知能(AI)をはじめとした技術を活用して継承する取り組み「プロジェクト 匠テック」を開始したことを発表した。
また、同取り組みの一環として双日と共同で、後継者不足が深刻なマグロの目利きの技能を継承するため、天然マグロの尾部断面画像からAIが品質判定を行うシステム「TUNA SCOPE(商標出願中)」を開発し、同システムの実証実験を今年3月に実施した。
発表によると、従業者の高齢化が深刻な課題となっている水産業界において、マグロ仲買人の目利きノウハウが一人前になるまで10年必要といわれている。そこで、マグロの尾部断面の目視により品質判定を行う職人技を、「尾切り検品」と呼ばれる検品フローから得た膨大なデータの機械学習によって継承したAIシステム「TUNA SCOPE」の開発に至った。
開発においては、マグロの尾部断面写真と、職人の4~5段階の品質評価の結果を紐づけて尾切り検品のデータを取得し、ディープラーニングによる画像解析を行うためのシステムを構築。さらに、収集したデータをもとにチューニングとディープラーニング・アルゴリズムの選定を行い、スマートフォンアプリとして実装した「TUNA SCOPE」β版となった。これをマルミフーズ焼津工場での検品業務で試験適用した結果、職人と85%の一致度でマグロの品質判定に成功した。
これを受け、最高ランクとして判定されたマグロを「AIマグロ」とし、商品ブランドロゴを開発。「産直グルメ回転ずし 函太郎Tokyo」で5日間にわたって提供し、約1,000皿を販売した。その後のアンケートの結果、注文客の89%から「AIマグロ」に対する高い満足度を示す回答が得られたという。 同実証実験の成果を踏まえ、「TUNA SCOPE」のさらなる精度向上と実用化に向け、学習モデルの教師データの継続的な収集や解析アルゴリズムの最適化に向けた取り組みを続けていくほか、「TUNA SCOPE」開発に際して得られたノウハウを、ほかのさまざまな産業分野における目利きの技能継承に応用していくことで、社会や企業の課題解決に貢献していく予定だ。