原子力安全に関わる学術団体や組織は自然現象に関する新知見を評価し、原子力施設が対応策を取るべきかを考察して提言する仕組みをもつ必要がある―。日本学術会議(山極壽一会長)が、津波対策の不備が東京電力福島第一原発事故につながったとの重い教訓を受け、原子力関係者だけでなく、原子力安全に関わる学術団体が取り組むべき課題も列挙した報告書をこのほどまとめ、公表した。

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    日本学術会議 報告書の表紙

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    日本学術会議の山極壽一会長

報告書は「我が国の原子力発電所の津波対策 ―東京電力福島第一原子力発電所事故前の津波対応から得られた課題―」と題し資料を含め44ページ構成。日本学術会議の総合工学委員会原子力安全に関する分科会(第24期、委員長・矢川元基東京大学・東洋大学名誉教授)が、事故前の津波の高さに関する検討の経緯や関係組織の取り組みについて前期分科会の審議内容を引き継ぎながら分析した。

報告書は、福島第一原発の敷地の高さを15.7メートル超える津波を東京電力が事故前に試算していたことを重視。まず「福島第一原発事故から得られた教訓の1つは、津波のような不確定性が大きい事故要因への対応が不十分だったことだが、従前の津波対策では防げなかったのか、何が不足していたのか未だ明確な結論が出されていない」と問題提起した。

その上で「(電力)事業者は研究段階にあって一般的に認知されていない知見や情報であっても何らかの適切な対応をすべき」「(事業者は)深層防護の考え方と判断基準を持っていなかったために対応が遅れた。学術団体から出された知見や提言を真摯(しんし)に受け止め、対策の厚みを増しておくことが重要」などと強調している。

報告書は規制当局に対しても「規制機関は(事故前に)学術団体から出された知見や提言に積極的に耳を傾け、規制に採用すべき新知見を自ら見出す努力をしていなかった。(今後は)環境に与える影響が大きい事象を見出して時期を失することなく事業者を指導監督する事が重要」と指摘した。そして国内の科学者で組織する日本学術会議として学術団体自らに対しても「(事故前は)自然現象の脅威や事故に対する想像力が欠如していた」と振り返り、必要に応じて新知見の活用方法や対応策を積極的に事業者や規制当局に提言することを求めている。

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