アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)と大日本印刷(DNP)は5月23日、都内で記者会見を開き、DNPがAWSが提供する18分の1サイズの自動走行型レーシングカー「AWS DeepRacer」と、3DシミュレーターでレーシングカーのAI(人工知能)学習ができる「AWS DeepRacerコンソール」を活用したアプリケーション開発エンジニアの育成を開始すると発表した。

DNPは、セールスプロモーションやコンタクトセンター業務などでAIを活用した各種ソリューション開発を行っており、これまでIT分野での研究者や適切なクラウド環境を設計・構築するクラウド・アーキテクトなどの人材育成を推進してきたという。

今回、同社の企画や開発・運用などのさまざまな部門において、一定の環境下でAIが試行錯誤を通じて自律的に学習する「強化学習」を理解するツールとしてAWS DeepRacerを採用することで、社内、得意先企業向けのサービス開発の現場でAIを活用できる人材を育成していく考えだ。

  • 「AWS DeepRacer」の外観

    「AWS DeepRacer」の外観

冒頭、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクトの瀧澤与一氏は「昨今では機械学習に対するニーズが高まっており、新しいビジネスを創出することが多くなっている。われわれでもアマゾンのレコメンドエンジンや倉庫内ロボットの自律制御、Amazon Echo などで活用している」との認識を示す。

  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン 技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクトの瀧澤与一氏

    アマゾン ウェブ サービス ジャパン 技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクトの瀧澤与一氏

同社では「AWS Machine Learning Services Stack」として、ユーザーに合わせたレコメンデーションを行う「Amazon Personalize」、時系列データを予測する「Amazon Forecast」、機械学習プロジェクトの課題を解決するためのマネージド・サービス「Amazon SageMaker」などのサービスを展開している。

AWS DeepRacerについて、同氏は「強化学習をすべての開発者の手に届けるためのサービスだ。DeepRacerの強化学習は、特定の環境下で一連の行動から学習するものであり、DeepRacerはカメラ画像から行動を決定するモデルを学習で作成した上で、コースに対してエージェントがさまざまな運転を試し、ゴールに到達できるように学習する」と述べた。

  • DeepRacerの強化学習の概要

    DeepRacerの強化学習の概要

同社は、機械学習テクノロジーを駆使した自動運転車のレース「AWS DeepRacer リーグ」を開催し、毎月開催する仮想レースの「バーチャルサーキット」と、世界中のAWS Summit会場で実機とサーキットを用いて行われる「Summitサーキット」で、各参加者がタイムを競っている。

瀧澤氏は「強化学習において特定の行動にインセンティブを与える報酬関数が重要だ」と語気を強める。DeepRacerを走らせるためにはクルマからカメラ画像のあらゆる見え方に対して、自動運転車が取るべき運転行動を登録できれば、コースを走らせることが可能だが、実際には無数の見え方が存在するため、登録自体が難しいという。

  • 報酬関数の概要

    報酬関数の概要

では、どのように報酬を与えるのか。この点について同氏は「例えば、道の中央を走ると2点、端では0.1点と報酬を設定すると、実際に走らせた際にサーキットには多様な報酬が存在するため、センターライン上であれば報酬、外れれば少ない点数というフィードバック得ながら状態が変化し、どのように走ればいいのかを学んでいく」と説明した。

そのために、3DシミュレーターでレーシングカーのAI学習を行うAWS DeepRacerコンソールを用い、モデル作成→報酬関数とハイパーパラメータ、行動空間を含む学習の設定→学習→評価、→モデルの調整というサイクルを回し、学習モデルを向上させる。

  • 「AWS DeepRacerコンソール」の概要

    「AWS DeepRacerコンソール」の概要

大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター 副センター長の福田祐一郎氏は「われわれが事業活動を進めるにあたり、AIは必要不可欠である。応用性、柔軟性の高い技術であり、新しいサービスを提供できる。しかし、活動を加速させるためにはサービスを組み合わせて新たな価値を生み出すBuilderの育成が急務となっている」と話す。

  • 大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター 副センター長の福田祐一郎氏

    大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター 副センター長の福田祐一郎氏

  • AI技術者の育成視点

    AI技術者の育成視点

同社では、3月に社内レースとして「AWS DeepRacer GP(Grand Prix) powered by DNP」を実施し、グループ会社を含め73人が参加した。社内レースを開催し、週2回の勉強会でノウハウを共有することで全体の底上げにつなげているという。同氏は「これらの活動により、自然と参会者のフィードバックの精神やオーナーシップが養われる。目標はAWS DeepRacer Leagueで優勝することだ」と、意気込みを語る。

今後、AWS DeepRacer専用のオリジナル・コースを作成し、社外のアプリケーション開発エンジニアに公開する。また、AWS DeepRacer GP Powered by DNPも6月後半以降に公開し、アプリケーション開発エンジニア同士の技術交流の場を提供するほか、AWS DeepRacerの技術情報や関連する同社の製品・サービスの情報発信、AI人材の提供などを積極的に進めていく方針だ。

  • AWS DeepRacer専用オリジナル・コースの概要

    AWS DeepRacer専用オリジナル・コースの概要