鳥類のモズは捕らえたバッタなどの獲物を縄張り内の木々の枝先などに突き刺して置く「はやにえ」と呼ばれる習性があることで知られる。「はやにえ」は冬に備えた保存食と考えられていたが、オスにとっては上手にさえずり、メスとつがいになるための栄養源になっているようだ。このような興味深い研究成果を大阪市立大学などの研究グループがまとめた。研究成果はこのほど国際学術誌「Animal Behaviour」電子版に掲載された。
モズは日本国内の農地や林に広く生息する体長約20センチ、動物食のスズメの仲間だ。「はやにえ」の習性があることで知られる。しかし、その役割は長い間謎で仮説の1つに「冬の保存食説」があった。
大阪市立大学大学院理学研究科特任講師の西田有佑さんや北海道大学大学院理学研究院教授の高木昌興さんらの研究グループらがモズの生態を調べた。その結果、モズのオスは非繁殖期に「はやにえ」を作り、それを食べる時期は繁殖期前の1月が中心で2月はわずかだった。このため、研究グループは冬の保存食以外の役割もあるのでは、と考えた。
1月は、モズの繁殖が始まる直前の時期。それまでの研究で、(1)オスは繁殖期になると求愛のために縄張り内で活発にさえずり始めること(2)栄養状態が良いオスは早口で(さえずり速度が速い)さえずることができ、早口なオスはメスに好まれること―が分かっていた。そこで西田さんらは、繁殖期の2~5月の間のオスの生態を詳しく調べることにした。
研究グループが、繁殖期のオスの縄張りを定期的に巡回してオスのさえずりを録音し、さえずり速度と「はやにえ」の消費量の関係を調べた。すると消費量が多かったオスほど、さえずり速度が速いということが分かった。
グループは次に、オスの縄張り内の「はやにえ」を取り除いた「除去群」、オスが通常消費する3倍量相当の餌を与えた「給餌群」、「はやにえ」の数を操作しなかった「対照群」という3つのオス群を用意。各群のオスのさえずり速度(歌唱速度)を比較した。
その結果、除去群のオスは対照群よりも速度が遅くなり、逆に給餌群のオスは対照群よりも速度が速くなっていた。また、各群のオスの間でメスとつがいになれる成功率(獲得成功率)に差があるか観察した。すると、除去群のオスは対照群と比べて目立って獲得成功率が低かった。給餌群のオスは成功率が対照群とほぼ同じ(90%前後)ぐらい高いだけでなく、より早い時期にメスを獲得できることが分かったという。
これらの結果から研究グループは、「はやにえ」は冬の保存食としてだけではなく、オスにとっては、メスを獲得する際に重要なさえずりの速さといった言わば「歌の質」を高めるための栄養源として機能している、との結論に達したという。
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