SAPが5月7日から3日間、米フロリダ州オーランドで年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2019」を開催している。初日の基調講演では、CEOのBill McDermott氏が「体験」の時代の幕開けを告げ、体験データの取得と分析により期待との間のギャップを埋める重要性を強調した。
「期待と現実に受け取ったものとの間にギャップがある」――McDermott氏はこれを「体験のギャップ」と呼ぶ。顧客体験が重要という主張は新しいものではないが、SAPは解決のアプローチとして、体験のデータを取得して運用データと連動させることを提唱する。
体験のデータの取得を実現するのが、SAPが2018年11月に買収を発表したQualtricsだ。Qualtricsは、さまざまな形のアンケートなどを通じて顧客の感情を分析する技術を開発しており、顧客(「CustomerXM」)、製品(「ProductXM」)、従業員(「EmployeeXM」)、ブランド(「BrandXM」)の4つの分野で体験管理(XM;Experience Management)ソフトウェアを提供している。
4つのソフトウェアの土台が、「Qualtrics Experience Management Platform(XM Platform)」だ。XM Platformには、分析とインテリジェンスの「Qualtrics iQ」も組み込まれている。
「SAPには、優れた体験を提供することが可能な豊富なオペレーションデータがある。だが、体験のデータがなく、人の感情がわからないということに気がついた」と、McDermott氏は買収に至った背景を説明する。
Qualtricsでは体験管理により収集した体験データを「X-data」としている。オペレーションデータ(O-data)は何が起こったのかを理解できるのに対し、X-dataは「なぜ」がわかる、とMcDermott氏は説明した。
そして、「O-dataとX-dataを組み合わせるプラットフォームが必要。2つがそろって初めて本物のパーソナライズを拡張性のある形で実現できる。これにより、体験のギャップを埋めることができる」と続けた。
Qualctricsの共同創業者兼CEOのRyan Smith氏は、「体験エコノミーが競合を変えている。生き残りだけではなく、競合に勝ち抜くには、体験管理が重要になる」と述べた。
体験エコノミーにおいては「優れた体験を提供した企業は不相応なぐらいにメリットがあるのに対し、提供できない場合はひどい目にあう」とも話す。SNSの普及などによって情報はあふれているため、顧客は簡単により良い体験を求めて移ってしまう。
実際、タクシー業界をひっくり返してしまったUberやLyftが成功したのは優れた体験を提供したからだ。「崩壊はギャップがあるところで起きている」(Smith氏)
今、企業が抱えている課題は、営業、サプライチェーン、マーケティングなどが部門ごとにデータを集めており、それらが連携していないということだ。さらに、「データのガバナンスやセキュリティもバラバラ」とSmith氏は指摘する。
Qualtricsのプラットフォームを使うことで、これらすべてが接続する単一のプラットフォームを構築して、顧客のフィードバック、従業員のフィードバック、NPS(ネットプロモータースコア)、製品レビュー、ブランドトラッキングなどのデータを乗せて、活用につなげることができるという。
メリットは、顧客満足度の改善、従業員のリテンション、顧客の乗り換え防止などさまざまだ。Smith氏によると、すでに1万社がXMプラットフォームを利用しているとのことだ。
Smith氏は最後に、「これまでERP、CRMの標準化が進んだが、体験エコノミーでは体験管理で標準化する」と予想した。
会期中、SAPは従業員のエンゲージを分析する「SAP Qualtrics Employee Engagement」など、Qualtricsの技術を取り込んだ製品を10種類発表している。