世界最大の飛行機のひとつ、米国ストラトローンチ・システムズの「ストラトローンチ」が、2019年4月13日に初飛行に成功した。
同社は、昨年10月に亡くなったポール・アレン氏らが設立した企業で、この飛行機を使い、ロケット空中発射の事業化を目指している。
ストラトローンチの初飛行
ストラトローンチ・システムズ(Stratolaunch Systems)は、2011年に創設された米国の宇宙企業で、飛行機からのロケット空中発射の事業化を目指している。創設メンバーには、マイクロソフトの共同創業者のひとりで、昨年10月に亡くなったポール・アレン氏や、著名な航空機設計者のバート・ルータン氏などが名を連ねている。
飛行機からロケットを発射するという構想自体は目新しいものではないが、同社の特徴は、その発射に使う飛行機「ストラトローンチ(Stratolaunch)」が、世界最大級の大きさをもっているところである。
ストラトローンチの主翼は長さ117mもあり、同じく巨大な飛行機として知られるウクライナのAn-225「ムリーヤ」の主翼の88.4m、1947年に米国の実業家ハワード・ヒューズが開発したH-4「ハーキュリーズ」の97.5mという数字を大きく超える。
ただ、胴体の全長は73mであり、ムリーヤの84mよりは短い。そのため厳密に言えば、「世界最大級の飛行機」、もしくは「世界最大の飛行機のひとつ」と呼ぶのが正しい。
ストラトローンチの離陸時の質量は約650tにもなり、これほど巨大で重い機体を飛ばすため、ボーイング747や777などに使われている、プラット&ホイットニー製のPW4056エンジンを6基も装備している。
また、「双胴機」と呼ばれる、2つの胴体をもつ、少し変わった姿かたちをしている。これは、ロケットを搭載するため、胴体の間に生まれる空間が必要だったからである。
ストラトローンチは2017年5月にロールアウトし、同年12月には低速のタキシング試験を実施。2018年に入ってからは、徐々にスピードを上げて試験が続いた。
2018年10月には、ポール・アレン氏が亡くなるという悲劇に見舞われたが、それでも開発や試験は続き、2019年1月11日には高速タキシング試験にも成功。そして4月13日、満を持して初飛行に成功した。
今回の初飛行試験は、カリフォルニア州にあるモハーヴェ空港で行われ、米太平洋夏時間13日6時58分(日本時間同日22時58分)に滑走路を離陸した。ストラトローンチは約2時間半にわたって飛行し、最高高度1万7000ft(約5.2km)、最高速度は時速304kmに到達。飛行制御システムや着陸の練習などをこなし、無事に着陸した。
同社のJean Floyd CEOは「今日の飛行は、地上からのロケット発射システムに代わる、柔軟性の高い打ち上げ手段を提供するという私たちの目標を前進させました」と語る。
ストラトローンチの将来性は?
初飛行に成功したストラトローンチだが、その将来性には陰りが生じている。
もともと同社は、ストラトローンチから、中型ロケットと大型ロケット、そして有翼のスペースプレーンなどを発射することを目指し、そのためのロケット・エンジンなどの開発も行っていた。
しかし、今年1月にはこれらのロケットやエンジンの開発を中止する決定が下されたことが明らかになった。理由は不明だが、同社創業者で、最大出資者でもあったポール・アレン氏が亡くなったことが影響したといわれている。
現在同社では、ストラトローンチの活用法として、「ペガサス(Pegasus)」と呼ばれるロケットを空中発射する計画を進めている。
ペガサスはノースロップ・グラマン(旧オービタルATK)が開発、運用している小型の空中発射ロケットで、高度400kmの地球低軌道に約400kgの打ち上げ能力をもつ。主にL-1011「トライスター」などから発射されており、1990年に初飛行し、これまでに40機以上が発射されている。空中発射ロケットとしては実績のあるロケットである。
ストラトローンチ・システムズはペガサスを購入し、ストラトローンチから、1機から最大3機を同時に発射することを目指している。これにより、一度の発射で、複数の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入でき、効率的で低コストな打ち上げができるとされた。とくに近年、世界的に小型衛星がブームだが、衛星によって投入したい軌道が異なることが多いため、この3機同時発射は大きな売りになるとされた。
今年1月の時点で、ストラトローンチからのペガサスの試験発射は2019年に行うとし、2020年から運用を始めるとされている。
しかし、そもそもノースロップ・グラマンが運用するペガサスでさえ、運用コストの高さから打ち上げ数は少なく、売れているロケットとは言い難い。3機同時発射の場合は、1機あたりのコストをいくらか下げられるかもしれないが、そもそもペガサス自体が高価であり、さらにエンジンを6基もつストラトローンチ自体の運用コストの問題もあり、劇的なコストダウンは難しいだろう。
また、ペガサスよりはやや打ち上げ能力は小さいものの、米国のロケット・ラボ(Rocket lab)の「エレクトロン(Electron)」ロケット、ボーイング747型機からの空中発射ロケットを開発しているヴァージン・オービット(Virgin Orbit)の「ローンチャーワン(LauncherOne)」など、低コスト性や打ち上げの柔軟性などに念頭を置いた、ペガサスよりも設計が新しい小型ロケットが続々と登場しつつある。
ペガサスそのものの課題と、ライバルが次々立ち上がりつつある中で、ストラトローンチがどこまでシェアを獲得できるかは不透明な状況である。
出典
・Stratolaunch・Completes Historic First Flight of Aircraft - Stratolaunch Stratolaunch
・How We Launch - Stratolaunch Stratolaunch
・Pegasus- Northrop Grumman Corporation
・Who We Are - Stratolaunch Stratolaunch
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
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