ソフトバンクは、米AeroVironmentとの合弁会社であるHAPSモバイルを通して、HAPS(High Altitude Platform Station)事業を展開し、2023年からビジネス化すると発表した。
HAPSとは、成層圏に飛行させた航空機などの無人機体を通信基地局のように運用し、広域のエリアに通信サービスを提供できるシステムの総称。
HAPSモバイルでは、ペイロードと呼ばれる通信機器を搭載した無人航空機を、地上約20キロメートルの成層圏で長期間飛行させることで、通信基地局のように運用する。航空機1機あたり直径200kmのエリアをカバーし、日本であれば、40機で全国をカバーできるという。これにより、山間部や海上といった、これまで圏外となっていた地域も通信可能となる。成層圏は気流も安定しており、飛行しやすいという。
現在利用しているスマホや携帯端末は変更することなくそのまま使え、既存の基地局と電波が干渉しないように、時分割で通信するしくみも導入するという。
無人航空機は、太陽光発電パネルとバッテリを搭載。その電力でプロペラと通信機能をまかなう。無人航空機は米AeroVironmentが今年、新たな機体として「HAWK30(ホーク30)」を開発。この機体を使って、年内にも商用化に向けた実証実験を行うという。
HAWK30は、全長約78メートルで、ソーラーパネルを搭載した翼には10個のプロペラを備え、平均して時速約110キロメートルで飛行。雲などよりも高い高度を飛行して運用するため、ソーラーパネルで太陽光を常時受けることができるほか、1年間を通して比較的風が穏やかに吹く成層圏の特長を併せて生かすことで、数カ月の長期間を安定して飛行することが可能だという。機体は2年間連続で飛行できる耐久性を有しているが、当初は6カ月間の連続飛行を行い、徐々に飛行期間を延ばしていくという。
HAWK30の30は、発電効率の関係から赤道から北緯/南緯それぞれ30度のエリアまでをカバー。2025年に北緯/南緯それぞれ50度までをカバーする「HAWK50」を開発。日本もカバーエリアとなる。
このようなビジネスを始めた背景について、ソフトバンク 代表取締役 副社長執行役員 兼 CTO 宮川潤一氏は、「日本はすべてが当たり前の世界だが、世界には教育が不十分で、働くことも、病院に行けない人もいる。インターネットを利用できない人口は37億人いる。生まれる場所や国が違っても、インターネットに接続できる世界を作りたい。それによって、人と人をつなげ、情報革命がもたらす無限の可能性を追求していく」と語った。
AlphabetのLoonと提携
また、ソフトバンクは、Alphabetの子会社で、気球によるHAPS事業を手がける「Loon」に1億2,500万米ドルを出資し、提携していくと発表した。Loonではすでに、1つの気球で平均連続150日間運用し、3500万キロメートルの飛行実績と30万人以上の通信の接続実績があり、HAPS事業で先行する。
今回の提携により、HAPSモバイルによる、Loonの完成機体と技術を活用したホールセール事業、Loonによる、HAPSモバイルの航空機完成時における同機の活用、各種航空機やITU準拠の周波数帯に適用可能なペイロードの共同開発、LoonおよびHAPSモバイルそれぞれのプラットフォーム上への通信提供を可能とするグローバル展開可能なゲートウェイまたは地上局の統合、HAPSモバイルによる、Loonの機体管理システムとSDNの採用および最適化、各国の規制当局および官公庁に対する、高高度通信ネットワーク活用の働き掛けを目的としたアライアンスの形成、両社の機体連携による通信ネットワークインフラの共用化を行っていく。
Loon LLC CEO Alastair Westgarth(アラスタ・ウェストガース)氏は、今回の提携について「一緒に業界を進化させて、これまで無理だと思っていたことを可能する」と語った。
宮川氏はHAPSビジネスの市場規模について、「37億人に1ドルで提供すれば4兆円、単価が1000円になれば40兆円の規模になる」と語った。日本では、ドローン配送や山間部のIoTなどの利用を想定しているという。