「今日のクラウドは難しすぎます。容易なポリシー管理、首尾一貫したAPI、オープンソフトウェアなどを通じてよりシンプルに、皆さんのニーズを満たすようにするのがGoogleの仕事です」
Google Cloud Next '19の基調講演において、GoogleのUrs Hölzle氏 (テクニカルインフラストラクチャ担当SVP)が語ったGoogle Cloudの基本理念だ。GoogleはNext '19の第1日目に、それに従ったハイブリッド/マルチ・クラウドのソリューション「Anthos」など、ITシステムのモダナイズをサポートする新製品やさまざまな取り組みを発表した。
2日目のテーマは、クラウドの利活用に踏み出したビジネスのその後。GCP (Google Cloud Platform)で、何が変わり、何ができるようになるのか。Hölzle氏は、GCPの価値について次のように語った。
「今やアプリケーションのデプロイと管理だけがクラウドではありません。データもクラウドであり、そしてデータから皆さんがより多くを得られるようにサポートできるのがGCPの大きな強みの1つです」
データこそGoogleの専門分野であり、同社の中核をなすDNAと呼べるもの。それはクラウドサービスプラットフォームにおいても変わらない。
クラウド導入において企業が不安に思うことの上位に、必ずと言って良いほど挙げられるのが、「プライバシーやセキュリティリスクへの不安」、そして「安定したシステム運用への不安」である。顧客にデータの活用を促すなら、っそうした不安の払拭は欠かせない。
2日目の基調講演の序盤で、Google CloudのCEOであるThomas Kurian氏は同社のプライバシー保護の原則を次のように示した。
「あなたのデータはあなたのデータであり、他の誰のものでもありません。同様にあなたのAIモデルはあなたのAIモデルです。所有者の許可を得ずにGoogleがあなたのデータにアクセスすることはありません。また許可なくエージェンシーがアクセスできるようなバックドアも設けません」
セキュリティに関しては、悪意のあるアクティビティや情報漏洩の兆候をログから検出する 「Event Threat Detection」(ベータ)、すべてのアセット、コンテナ、リスクプロファイルなどを1画面で表示する「Cloud Security Command Center」、機械学習を活用してポリシーコントロールを自動化する「Policy Intelligence」(アルファ)、Android携帯を用いたセキュリティキー機能など、数多くの発表が行われた。その数は30を超えるが、ポイントは、設計段階からセキュリティを考慮して作られたインフラストラクチャを基盤に、さまざまな制御機能が連携し、常にエンドツーエンドのセキュリティを提供すること。Anthosにおいても、同プラットフォームを採用することで、顧客はクラウドやオンプレミスの違いに関わらず、強固なサービス・アイデンティティ、サービス間の暗号化通信、ポリシーとコンフィギュレーションの一元管理といったGoogle Cloudのセキュリティモデルで安全を確保できる。「アプリケーションだけではなく、情報セキュリティもモダナイズしてゼロトラストモデルに移行できるシンプルで一貫した方法」(Hölzle氏)としていた。
1億行のスプレッドシートをBigQueryが可視化
2日目には、スマートアナリティクスやAIおよび機械学習に関する発表が多数あった。
データ活用を阻む問題の1つに、情報の"サイロ化"が挙げられる。複数の情報システムにデータが分散して孤立してしまっている状態だ。100を超えるコネクタを備えたクラウドネイティブなデータインテグレーションサービス「Data Fusion」(ベータ)を用いれば、数クリックでデータのパイプラインを作ってデータを統合できる。ビッグデータ解析の下準備を容易にする。
情報の価値は、データ分析のスピードにも左右される。「BigQuery BI Engine」(ベータ)は、インメモリーで超高速な分析を実現する。グローバル規模のオペレーションのような膨大で複雑なデータでも、ほぼリアルタイムで可視化、分析しながら素早い判断を下せるようにする。
情報の分析と共有にはスプレッドシートが活躍するが、数百万規模になるような規模だとスプレッドシートでは扱えない。「Connected Sheets」は、BigQueryを多くの人たちが使い慣れたスプレッドシートのインターフェイスに統合した。数回のクリックだけで、大きなデータをスプレッドシート上のダッシュボードとして可視化し、組織内で安全に共有できるようにする。
数クリックの操作で機械学習モデルを構築
「これから数年の間に、AIは全てのビジネス、全ての組織を変えると私達は考えています。企業だけではなく、スモールビジネスにも同じように、全ての人達がその力を活用できるように変えていくのが私達の目標です」(Kurian氏)
Googleは、機械学習のエキスパートだけではなく、AIの知識と経験を深め始めた開発者でも、AIを駆使して現実の問題の解決に取り組めるように「AI Platform」(ベータ)を用意した。データの準備から機械学習モデルの構築、実行、管理まで、機械学習プロジェクトの一連のサイクルをサポートする統合環境だ。
また、データサイエンティストの力を借りられない会社でも、機械学習を用いたビジネス分析や予測を活用できるように、機械学習の専門知識を持たなくても機械学習モデルを構築できるAutoMLに「AutoML Tables」(ベータ)を加えた。一行もコードを書かずに、数クリックの操作だけで、構造化されたデータで機械学習モデルを構築、デプロイできるようにする。ビジネスアナリストの機械学習活用を支援する。
AutoMLには他にも、AutoML Visionの動画版となる「AutoML Video」(ベータ)が追加された。また、AutoML Visionに、オブジェクトの位置や数を識別する「object detection」(ベータ)、エッジデバイスで画像の分類などを実行する「AutoML Vision Edge」(ベータ)といった機能が加わった。
また、ビジネス判断を支援するAIソリューションとして、デジタルドキュメントを識別し、情報を構造化データとして抽出して分析する「Document Understanding AI」(ベータ)、パーソナライズ化した製品レコメンデーションを自動化する「Recommendations AI」(ベータ)、コールセンター業務を自動化する「Contact Center AI」(ベータ)を発表した。
Next '19の2日目で印象に残ったのは、Googleがデータサイエンティストだけではなく、あらゆるレベルのAIエンジニアを総称してビルダーと呼んでいたことだ。AIを活用したソリューションに踏み出す企業や開発者が増加しているが、それでも今はまだ、AIを活用したビジネス開発とはどのようなものなのか、必要なスキルは何か、それをどのように身に付けていけばいいのか、多くが模索している。データサイエンティストだけではなく、AI時代を見すえた全ての開発者が次世代デベロッパーとして活躍できる場を整えてこそ、Google Cloudが目指すモダニゼーションは加速する。だから、全ての開発者を包含してビルダーと呼び、「ビルダー達のためのAI」を目指しているのだろう。