独SUSEは4月2日から4月5日まで、米テネシー州ナッシュビルで年次イベント「SUSECON 2019」を開催した。3月に投資会社EQTによる取得が完了し、独立企業として再スタートを切ったSUSE、今後はLinuxディストリビューションベンダーからの拡大を加速していく。

SUSEはLinuxベンダーとしてスタートしたが、ここ数年は主力のエンタープライズLinux(「SUSE Linux Enterprise Server」)だけでなく、オープンソース技術を土台としたITインフラソリューションを構築してきた。SUSECONの基調講演では、SUSEでエンジニアリング、製品、イノベーション担当プレジデントを務めるThomas Di Giacomo氏が、SUSEのソリューションを説明した。

Di Giacomo氏はゲームのトレンド変遷になぞらえて企業ITの変化を説明した。SUSE誕生当時、家庭用ゲームはオフラインで一人でゲームを楽しむしかなかったが、インターネットの普及などの技術の進展を受けてオンラインゲーム、そしてマッシブマルチプレイヤーオンラインゲーム(MMOG/Massively multiplayer online game)がトレンドに、様々な場所から多数のゲーム愛好家が同時に参加して競い合うことが可能になった。だからと言って全てがオンラインになったわけではない。人気のゲームは、ソロでトレーニングするなど様々な用途を満たすマルチモードだ、とDi Giacomo氏はいう。

  • Thomas Di Giacomo氏。SUSEの独立により、CTOからエンジニアリング、製品、イノベーション担当プレジデントとして技術戦略を統括することになった

    Thomas Di Giacomo氏。SUSEの独立により、CTOからエンジニアリング、製品、イノベーション担当プレジデントとして技術戦略を統括することになった

これはITも同じ。オンプレミスからパブリッククラウドに完全に移行するわけではなく、用途に合わせて正しいものを使う必要がある。「パブリッククラウドは、ローカルのコンピュータとストレージのニーズを完全にリプレースしない」とDi Giacomo氏。

それが現在バズワードとなっている"マルチクラウド"あるいはエッジの台頭につながっているという。「複数のパブリッククラウドを使い分けることでメリットを得られる」とDi Giacomo氏はクラウドサービス事業者がオンプレミスでもサービスを利用できるようにする動きにもつながっていると解説する。

使い分けの要因となるものは、ワークロードやデータの種類や用途だけではない。チームのスキル、社風、ビジネスやビジネスプロセス、規制などを考慮して、クラウドかオンプレミスか、パブリッククラウドかプライベートクラウドか、どのパブリッククラウドかなどを決定する必要があるという。

SUSEはITオペレーション側でOpenStackベースの「SUSE OpenStack Cloud」をもつ。Hewlett Packard Enterpriseより2017年に取得した技術で、これまでHPE Helionブランドのものも平行してリリースしてきた。SUSE CONでは初めて、SUSE OpenStack CloudとHPE OpenStackをマージしてSUSEブランドのみとなった最新版「SUSE OpenStack Cloud 9」を発表した。OpenStackは最新のOpenStack Rockyを採用し、クラウド運用管理機能のCloud Lifecycle Managerの導入、ベアメタル対応の強化などの特徴を備える。

SUSE OpenStackに加えて、マルチクラウドではクラウドアプリケーションプラットフォームの最新版「SUSE Cloud Application Platform 1.4」も発表した。最新版ではKubernetesネイティブのCloud Foundryアーキテクチャの採用が最大の特徴となり、Google Kubernetes Engine(GKE)のサポートなども実現した。これによりAmazon、Azure、Googleの各パブリッククラウド、「SUSE CaaS」(SUSEのコンテナ管理ソリューション)によるオンプレミスを組み合わせた環境で使用できるようになる。SUSEは合わせて、Kubernetesの公認サービスプロバイダ(KCSP)を受けたことも発表している。

  • SUSEのアプリケーションデリバリー技術である「SUSE CaaS」「SUSE Cloud Application Platform」を利用することでマルチクラウド対応を進めることができる

    SUSEのアプリケーションデリバリー技術である「SUSE CaaS」「SUSE Cloud Application Platform」を利用することでマルチクラウド対応を進めることができる。

これらが何をもたらすのか?Di Giacomo氏は、「企業は自社のニーズに合わせて様々な技術を最適な方法で使うことができる」と説明する。メリットは管理者だけではない。開発者はCloud Foundryをコンテナ化してSUSE CaaSを始め任意のKubernetesの上でCloud Foundryを実装できる。ネイティブなKubernetesコンテナスケジューラーも加わっており、「開発者はインフラを気にすることなくコードをプッシュできる」とDi Giacomo氏は開発者のメリットも強調した。

アプリケーションデリバリー側では、DevOps、CI/CD、プログレッシブデリバリーなどの手法の開発が進んでおり、SUSEが提供するマイクロサービスなど疎結合アーキテクチャ(Loosely coupled architecture)が加わることで、さらにアジャイルに、柔軟になり、拡張性も得られるという。

複数のパブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスの組み合わせで重要になるのが、ベンダーロックインの回避、そして相互運用性だ。Di Giacomo氏は今後、セキュリティ、コンプライアンス、低遅延などのニーズは増える一方で、「エッジでの処理が必要になったり、パブリッククラウドに抽象化したりする必要も出てくるだろう」と予想する。そこでは単一の技術ベンダーに依存することはリスクにつながるという。「安定性、将来のためにも、相互運用性を重視してオプションを制限しない選択を」とアドバイスした。