米IC Insightsは、2018年の半導体ファブレス・IC設計企業の本社所属国別売上高市場シェアの調査結果を発表した。それによると、2018年は米国勢(米国に本社を構えるファブレス企業群)が68%のシェアを獲得した。シリコンバレーにBroadcom、Qualcomm、NVIDIA、AMD、Xilinxといった巨大なファブレスが群雄割拠しているためである。

  • 2018年ファブレス・IC設計企業の世界市場における本社所在国・地域別内訳

    図1 2018年ファブレス・IC設計企業の世界市場における本社所在国・地域別内訳。2018年のファブレス市場総額は1094億ドル。2010年の内訳を右下に記載 (出所:IC Insights)

参考:2018年のファブレス半導体企業ランキング - トップ10の順位に変動なし

唯一市場シェアを拡大した中国勢

IC Insightsの調査によると、ファブレス半導体業界で、シェアを大きく伸ばしたのは中国勢のみで、それ以外の地域・国のファブレスはすべてシェアを低下させた。中国勢の2010年のシェアは5%程度であったものが、2018年には13%にまで上昇させている。台湾TrendForceの調査によると、2018年の中国のファブレス半導体業界の売上高は、前年比23%増と2桁成長を達成している。

参考:2018年の中国ファブレス半導体業界の成長率は23% - トップはHiSilicon

IC Insoghtsの調査では、2018年に成長率が高かったファブレス(売上規模2億ドル以上が対象)トップ5社のうち4社までが中国企業(BitMain、ISSI、Allwinner、および HiSilicon)であった。なお、中国ファブレストップのHiSiliconだが、その売り上げの9割以上が親会社であるHuawei向けであるため、TrendForce発表による中国ファブレス企業ランキングではトップに位置しているにも関わらず、IC Insightsの調査結果では除外されている。

今回、IC Insightsは、調査報告としてHiSilicon(Huaweiの子会社)、ZTE Microelectronics(ZTEの子会社)、およびDatang Semiconductor Design(Datangの子会社)の親会社への内販分を除くと、中国勢のシェアは7%に留まると指摘しており、内販比重の多い企業の取り扱いは、同じ市場調査会社同士であっても各社ごとにまちまちである点に注意を要する。

ファブレス不毛の地域 - 日本

欧州のファブレス企業は、2010年には4%のシェアがあったが、2018年には2%へ低下している。欧州勢のシェアが低下したのは、2015年、米Qualcommがファブレス売上高ランキングで欧州勢第2位の規模を誇った英CSRを買収したほか、Intelも欧州第3位の規模であった独Lantiqを買収したことによる影響が大きい。これらの買収により、2018年のファブレス売上高トップ50社に残った欧州勢は英国のDialog(2018年の売上高は14.4億ドル)とノルウェーのNordic(2018年の売上高は2億7100万ドル)の2社のみとなった。

ちなみに日本勢のファブレス市場でのシェアだが、2010年には1%程度であったものが、2018年も1%未満のままと、大きな動きはない。2018年のファブレスランキングトップ50に入った日本企業は、例年のことながらメガチップスだけであった。同社の2018年の売上高は前年比19%増の7億6000万ドルとなっている。また、韓国勢のシェアも日本同様に1%未満で、ファブレス・トップ50社中唯一の韓国企業はSilicon Worksで、2018年の売上高は前年比17%増の7億1800万ドルであった。日本および韓国は、半導体製造を重視しすぎたせいか、ファブレスが育たない不毛地帯となっている。

2018年の全世界のファブレス市場規模は、2017年から8%増の1094億ドルとなった。2018年の世界のIC市場全体の成長率は前年比14%増であったことから、ファブレスの伸びのほうが低い結果となった。一般的にはファブレスの伸びのほうが半導体市場全体の伸びよりも高い印象があるが、2018年に限って言えば、DRAMの価格高騰が市場の伸びを牽引したことから、このような結果となった。とはいえ、ファブレス売上高ランキングトップ50社中、16社の売上高は、前年比14%増よりも高い成長率を遂げたほか、50社中21社が2桁成長を遂げており、好調な業績となっている(2桁減少は5社のみ)。

仮想通貨マイニング用ICに振り回されたTSMC

2018年に最も急成長したファブレスは、中国を拠点とするBitMainであり、前年比197%増という驚異的な成長を記録した。しかし、BitMainをICサプライヤとラベル付けするのは少し誤解を招く可能性がある。BitMainは、仮想通貨マイニング用の電子機器サプライヤだからである。同社は自社で設計したICを公開市場で販売していないので、同社のIC売上高というのは基本的に同社の唯一の生産委託先であるTSMCから納入されたICの市場価値(もしも市販したとしたら価格はどれくらいになるか?)のことである。

2018年に、BitMainは世界の50億ドル規模の仮想通貨マイニング機器市場の84%のシェアを保持していたとIC Insightsは推測している。同社は過去3年間で売上高が急上昇した。BitMainの2016年のマイニング機器売上高は2017年には2億780万ドル、2017年には25億ドル、そして2018年には44億ドルと推定されている。同社の機器の売上高は仮想通貨、特にビットコインの価格に密接に関係している。ビットコインの価格は2018年1月の1万8000ドルから2018年12月には3500ドルに急落したため、28億ドルだったBitMainの2018年上半期の売上高は下半期には16億ドルに急落したとIC Insightsは推測している。

IC Insightsは、2016年以降のBitMainの仮想通貨マイニング機器の売上高の急激な増減が、過去2年間のTSMCの中国市場での売上高の変動の大部分を占めていると判断している。

  • TSMCの売上高推移

    図2 台湾TSMCの中国市場での売上高の推移(青棒グラフ)および同社の世界市場売上高に占める中国市場売上の割合(%) (出所:IC Insights)

今後、ファブレスは寡占化が加速

全体として、大手ファブレスの大部分は引き続き好調であり、主要なICファウンドリ(TSMC、GLOBALFOUNDRIES、Samsung、UMCなど)による売上増に貢献するとIC Insightsは見ている。 さらには、設計コストの高さやベンチャーキャピタルの出資難などによりファブレスへの参入障壁が高まり、ファブレス企業の設立が減少するにつれて、将来的にはますます上位にランクされているファブレスの寡占化が進む、いわゆる「トップヘビー」状態になのではないかとIC Insightsは予測している。ただし、中国だけは例外的に弱小ファブレス・IC設計企業が増加し続けていくと見られている。