2018年11月、佐川グローバルロジスティクス(以下、SGL)はWeWorkへ入居した。拠点として選んだのはWeWork丸の内北口。物流企業が丸の内にオフィスを構えたことにとても新鮮さを感じるが、同社はなぜWeWorkへの入居を決めたのか。その理由を聞いた。

社外との繋がりにWeWorkを活用

SGホールディングス傘下でロジスティクス事業を展開するSGL。商品の入荷、保管、検品、梱包といった物流加工業務を中心に、顧客の物流プロセス最適化に向けたサプライチェーン・マネジメントにも注力している。EC市場の拡大で物流に対する顧客ニーズが多様化する昨今。同社でも新たなサービスを展開すべく、新規事業創造に向けた取り組みが強化されている。ところがその取り組みを活性化できないある悩みを抱えていた。

「弊社の従業員は倉庫内で仕事をすることが多いので、外部との接点も少なくビジネスの発想も内向きになりがちなんです」

そう語るのはSGL取締役の林田氏。外部との接点を増やし情報収集を行える環境を整えなければと危機感をつのらせていた。

  • SGL 取締役 林田憲哉氏

事実、過去に社内で行った新規ビジネスのアイデア募集においても、既存事業に関連するものが多く「社員の内向きな発想」という課題が顕在化していた。そこで検討を始めたのがWeWorkだ。ソフトバンクの営業担当から紹介を受けWeWorkを知ったという林田氏。早速内覧を申し込んだという。

「当初は、いまどきの人はおしゃれなオフィスで働いているんだなくらいの印象でした。しかし、WeWorkの売りは人と人とのネットワーク構築であると聞き、ここに拠点を設けることで、外部企業と新たな繋がりが生まれさまざまな情報収集ができる。その点を非常にメリットと感じ入居を決断しました」

倉庫という閉ざされた空間が社内の雰囲気にも影響してしまう物流業ならではの課題。外の空気を取り込むための「窓」としてWeWorkが採用されたというわけだ。

一方でWeWorkの良さを別の視点で捉えていたのは人事部の吉原氏だ。

「WeWorkという環境で働く事が、社員の個性や能力を開花できるきっかけに繋がるのではと期待をしていました」

「社員の内向きな発想」を根本的に解決するためには、人材開発も必要であると考えていた吉原氏。WeWorkがもたらす環境の変化に期待をしていた。

  • SGL 人事部 部長 吉原通之氏

佐川グローバルロジスティクスのWeWork活用事例

課題解決のツールとしてWeWorkを活用

入居決断から1カ月。同社は7席のプライベートオフィスで活動をスタートした。

メンバーは社内公募によって選出され、所属の異なるメンバーが一つのチームとして入居している。部署単位で入居をせず、あえてそのような方法をとった理由は、いずれそれぞれが所属部署に戻った時に、WeWorkでの経験や人脈がその部署の課題解決に活きると考えたからだ。

2018年12月からWeWorkに入居し、もともとは倉庫内で商品の加工業務をマネジメントしていたという竹富氏は所属部署が抱えていた課題を次のように語る。

「倉庫内では情報共有の方法が非常にアナログで無駄な作業が多いです。それを効率化するためのツールやサービスを調べて検討はするんですが、実際に提案を受ける時間的な余裕がなかったり、収集できる情報にも限界があるので、本当にそのサービスが最適なのかもわからないという状態で問題を解決できずにいました」

  • WeWork入居メンバー SGL 竹富理紗氏

外との繋がりが持ちにくい倉庫という環境が効率化を目指す上でも障壁になっていたという竹富氏。今回WeWorkに入居したことで情報収集が捗り、検討の幅も広がったという。

「WeWorkではいろんな企業と意見交換をするので、自分の視野も広がって考え方も変わりました。こういう活動を通して所属していた部署に少しでも還元できるものを増やせればと思います」

竹富氏は自分自身の知識の広がりが仕事へのモチベーションに繋がっているといい、入居期間を延長してもらうほどの活躍をみせている。

一方、営業出身の原氏は、WeWorkで多くの企業とコミュニケーションをとる中で、顧客の潜在的な課題やニーズに気づけたという。

「多くの企業がビジネスモデルを語る時に、ロジスティクスという考えがないんです。マーケティングとか、AI、IoT、VR、いろんなワードが飛び出すんですけど、出来上がった製品を保管したり、配送したりというリアルな部分が抜けてしまっているんです」

  • WeWork入居メンバー SGL 原幸一氏

スタートアップ企業や新規事業を始めようとする企業が多いWeWorkでは、ローンチ前のビジネスについて会話をすることも多く、こうした物流に対する認識の差を感じることがあるという。入居前からこの「認識の差」を感じてはいたが、WeWorkでのコミュニケーションを通して自身の中でそれが確信に変わったという。

「今まではお客様の中で課題やニーズが顕在化されてから弊社に相談が上がってきていたと思うんですが、きっとその課題やニーズはもっと前から発生していたはずで、我々がそこを深掘りできていなかった。物流っていくらでもデザインできるものなので、相談が早ければ早いほど弊社が提供できるサービスの幅も広がります。今はそのことをもっと知ってもらえるようなイベントを開催したり、我々自身もいち早くそこに気づけるようなアプローチを心がけています」(原氏)

彼らには2カ月に1度、WeWork内でイベントを開催することがミッションとして与えられており、この機会を如何に有効活用できるかがポイントになっている。

入居メンバーの管理者を務める荒木氏は特にイベントへの思いが強い。

「イベントは最大のチャンスと捉えています。世の中的にもそうですけどまだまだSGLの知名度は上がっていませんし事業内容も伝わっていない。イベントに来てくれる数十名のお客様を通して、どんどんプロモーションしていきたいと考えています」

  • WeWork入居メンバー SGL 荒木雄太氏

自社の知名度を課題と捉えている荒木氏。その積極的な活動が功を奏し、最近では丸の内以外のWeWork拠点からも案件相談が増えているという。

他社とのコラボレーションや新たなビジネスを求めて多くの企業が集まるWeWork。SGLもその1社であることに違いはないが、WeWorkを社内の「課題解決プロジェクト」と位置付け、さまざまなメンバーを横断的に入居させた方法は、同社が開拓した新たなWeWork活用ノウハウと言える。

その成果が物流業界にイノベーションを起こすことに期待したい。