Infineon Technologiesの日本法人であるインフィニオン テクノロジーズ ジャパンは3月26日、戦略説明会を開催。日本地域が世界の中でもっとも高い成長率を遂げており、積極的な事業展開を今後も継続して図っていくことを明らかにした。

パワー半導体に積極投資

欧州の大手半導体メーカーである同社の売上高は2018年度(2017年10月~2018年9月)で約76億ユーロ。ここ数年は毎年売り上げならびに利益の拡大が続き、利益率も2018年度では17.8%まで向上してきた。現在の同社の売り上げ構成は、約4割が自動車(ATP)、約3割がパワーマネジメント&マルチマーケット(PMM)、約2割がインダストリアルパワーコントロール(IPC)、そして残りの約1割がデジタルセキュリティソリューションズ(DSS)という構成となっている。

同社の主要な製品はパワー半導体であり、300mmウェハでパワー半導体を製造する業界屈指のメーカーであり、2018年には稼働中のドレスデンの300mmウェハ工場の生産能力が2021年にも限界となるとの予測から、新たにフィラッハにも16億ユーロを投じて300mm対応のパワー半導体工場の建設を決定。2021年にクリーンルームを立ち上げ、2023年にフルキャパシティとする計画で、ポテンシャルとしては18億ドルの売り上げを出せる能力を有する予定だという。

  • インフィニオンの戦略

    同社の戦略は設備投資や研究開発により、優位性を常に維持し、高い市場シェアを獲得し続けるというもの

同社の好調な業績を後押ししているのが世界的な省エネ、エネルギーの高効率化である。特に自動車は欧州を中心に脱ガソリンの動きが急速に進んでおり、それを追い風にエレクトロニクス化が加速。同社も単に自動車に搭載される半導体のみならず、充電ステーション向け、太陽光発電所向けといったトータルでのソリューション展開を進めてきた。

また、IoTとAI(人工知能)の発達による産業機器分野におけるロボットの活用なども後押しの材料となっており、フィラッハの工場の最初の鍬入れもロボットが行ったという。

  • フィラッハ新工場

    フィラッハの新工場の鍬入れを行うロボットの様子

パートナーとの協調を重視して高い成長率を達成

同社代表取締役社長の川崎郁也氏は「アプリケーションを実現するためには、パートナーのイノベーションにかかっている」と説明。自社はあくまで半導体メーカーであり、ロボットや自動車そのものを作るわけではないが、パートナーと最適なアプリケーションを開発することを目的とした取り組みを推進していることを強調する。

  • インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

    インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの拠点概要

そのうちの取り組みの1つが、2018年秋に日本に開設された東京テクノロジーセンター(TTC)となる。TTCは、従来の日本での不良解析などを行ってきたチームに加え、ADASや産業用モータ制御が必要なアプリケーションの開発をパートナーと推進していくために設置された拠点という位置づけとなっている。4月より本格稼動する予定で、すでに顧客からは高い期待をかけられているという。

「今までは我々の半導体のエキスパートがシステムを作っている顧客であるエンジニアと会話をして開発を薦めてきたが、これからは我々の側にもシステムがわかる人材を配置することで、同じ言語で協力して開発を行っていくことができる」と、同社インダストリアル パワーコントロル(IPC)事業本部 事業本部長の針田靖久氏は、その重要性を強調する。

  • TTC
  • TTC
  • TTCの概要

また、「インフィニオンのリージョンは5つ。米州、EMEA、中国、アジア太平洋、そして日本。インフィニオンテクノロジーズジャパンでは、スローガンとして信頼できるパートナとしてお客様とともに ダイナミックな成長を実現するために"Reliable Partner – Dynamic growth"を掲げている」と川崎氏は語り、この実現のために「ビジネスの成長」、「日本のパートナーから学ぶ」、「日本のエコシステムとともに成長する」という3つの柱を掲げて事業を推し進めているとする。

  • インフィニオンの成長戦略

    インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの成長に向けた3本の柱

実際、日本地域の全社売り上げ比率は7%ほど(2018年度)であるが、その成長率は2018年度は前年比15%と、全社の成長率を上回っており、過去8年間の成長率も毎年12%以上の成長率を維持するなど、同社の事業を牽引する存在ともいえる。

「学ぶ、というのは、単に日本法人が学ぶのではなく、日本から全社が学ぶということ。品質マネジメントに対する要求が高いため、信頼性の高い設計が求められるほか、ドキュメントの改善やカスタマサポートのあり方なども学ぶ。また、エコシステムとしても、市場としてだけではなく、素材やアプリケーションなども含めて世界をリードする地域。我々としては、こういうエコシステムの中に入って、パートナーたちと一緒に成長していきたいと思っている」(川崎氏)。

  • 日本での学び
  • 日本のエコシステム
  • 日本での事業からの学びのサイクルとエコシステムのイメージ

次世代パワー半導体市場の鍵を握るSiC

パワー半導体に注力する同社だが、その素材はSiだけに限らない。次世代パワー半導体として期待されているSiCやGaNといった素材についても製品化を着々と進めており、SiC MOSFETを2017年より量産を開始したほか、生産能力の増強や技術の革新なども図っている。

現状、SiCのニーズはUPS(無停電電源装置)や太陽光発電システム向けインバータなどがけん引役となっているが、今後、自動車関連での採用が急速に進むことが期待されており、その際に必要となる低コスト化、安定供給に向け同社では、フィラッハの150mmウェハ工場をSiCラインへと転換を進めているほか、2018年には独自のウェハスライス技術「Cold Split」を有するスタートアップ企業「Siltectra」を買収。これをSiCに適用することで、ウェハのロスを減らすことができるようになるという。

  • SiC市場予測

    SiC市場の成長予測。自動車関連が伸びるには安定供給と低コスト化が必要となってくる

具体的には、従来は350μmのSiCウェハをグラインダで削って薄くしていたものを、2枚に切り分けて薄くすることができ、その2枚ともにエピ層を形成することで、生産性の向上、ロスの削減などを図ることができるようになるとしており、同技術を実際の量産工場に導入することで、SiCの大口径化と合わせた低コスト化を推進しようとしている。

  • SiltectraのCold Split技術の概要
  • SiltectraのCold Split技術の概要
  • SiltectraのCold Split技術の概要

なお、同社のIPCセグメントでは、2017年より「Japan 555 Strateg(ゴーゴーゴーストラテジー)」を展開している。これは、カスタマを業種などで5つのグループに分ける、フォーカスするアプリケーションを5つに絞る、日本の文化に合わせた5つのやるべき取り組みを本社とシェアする、といった取り組みを通じて、日本のIPC事業本部の年平均成長率20%の達成を目指し事業を推進しようというもので、日本市場そのものの高い成長率の達成における真のけん引役となっているといえるだろう。現在も順調に目標を達成してきているというが、「日本市場にはパワー半導体分野で強い企業が多々あるので、そこにどう切り込んでいくかがチャレンジ。フォーカスというキーワードの下、成長目標の実現に向かって進んでいきたい」(針田氏)としており、今後も継続して日本市場を重視した取り組みを進めることで、事業の拡大を図っていきたいとしていた。

  • Japan 555 Strateg

    Japan 555 Strategのイメージ