アビームコンサルティングは3月14日、RPAに関する記者説明会を開催し、RPAの試行段階から本格導入に移行した企業が業務改革を成功させるポイントを紹介した。
同社でRPA関連のビジネスを統括している戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル 安部慶喜氏は、同社のRPA導入実績と最新の調査結果から、RPAを本格展開する際の課題として、「効果や規模がスケールしない」「運用・統制ルールが未整備でガバナンス上のリスクがある」「RPAの先にあるデジタル改革をどう推進すればよいかわからない」という3点が明らかになってきたと説明した。
(1)本格展開で大きな効果を出すには?
安部氏は、本格展開において成果を創出する分かれ目は「アプローチの違いにある」と述べた。成果が出ていない企業は「現場部門を中心としたRPAによる改善のアプローチ」を、成果が出ている企業は「経営層をリーダーとしたRPAによる改革のアプローチ」をとっているという。
同社は、前者のアプローチを「現場型RPA改善」、後者のアプローチを「直下型RPA改革」と呼んでいる。前者では、現場主導で担当者が改善したい範囲を定め、時間をかけて少しずつ改善を進めていく。一方、後者では、プロジェクト主導で広範囲に業務分析を行い、スピード感をもって大きな改革効果を狙う。
安部氏は「直下型」で大きな効果が出る理由として、「改革の領域が広がり、全社的なルール・制度変更まで行える」「投資対効果が大きい業務から取り組める」「デジタル化を前提に業務の課題を発見できる」の3点を挙げた。
現場型では、例外業務など現場の負担が大きな業務が対象となるが、直下型では体制や手順が確立され、関わる人数が多い業務が対象となる。その結果、直下型では人の余力が生まれ、従業員の働き方を変えることにまで踏み込むことが可能になる。
ガバナンスが効いたルール作成のポイントは?
安部氏は、「ガバナンスが効いたルールを整備する際のポイントは、企画・開発に関連したものと運用・保守に関連したものに分かれると」と説明した。
企画・開発に関連したポイントは「ロボットのIDとパスワード設計」「業務の重要度に応じた開発手順」「開発・承認ルールや手順書の整備」「開発者のアクセス制御」「業務要件の網羅性チェック」、運用・保守に関連したポイントは「ログや変更情報の記録」「エラー・リカバリ手順の明確化」「ロボット管理責任者と管理台帳の整備」。
RPAはさまざまなシステムからデータを取得するが、ロボットが他部門のシステムに自由にアクセスできる場合、不正利用のリスクやIDとパスワードが漏洩するリスクが生じる。したがって、ロボットにIDを設定し、IDごとにアクセス可能なシステムや利用可能な権限を設定するとよい。
「ロボットを従業員として人事データに登録し、アクセス権限を従業員にマッチングさせている企業もある。こうしたことが行えるRPAを使うことが理想」(安部氏)
また、RPAを適用する業務の特性によっては、開発時に事前調整や入念なテストが必要なものがある。これらが不足することで、例えば、社外のWebサイトを定期的に巡回して情報を取得するロボットの事前調整が不足すると、サイト利用の規約違反となったり、サイバー攻撃として検出されたりする。したがって、業務の重要度に応じて、調整やテストなどの開発手順を設計する必要がある。
そのほか、ロボットが正しく作業していることを検証・証明するには、ロボットの稼働状況をモニタリングする仕組みを整備しておく必要がある。具体的には、「誰がいつ・どのロボットを実行したのか」「ロボットがどのような作業を行い、結果はどうなったのか」といったログを取得・保管し、ロボットの不適切な回収が行われていないかを確認できるよう、変更履歴を記録する。ログや変更履歴は改竄できない場所に格納しておく必要がある。
専門組織を開設してデジタル改革を実現するには?
アビームの調査では、RPAの展開に関して、トライアル段階ではIT部門が主導しているが、本格展開ではRPA推進専門組織が主導しているという結果が出ている。
ただし安部氏は、RPA専門組織の役割は「デジタルを活用した業務量削減と余力の創出」に加え、「デジタルと人による業務プロセスの再構築」と「デジタルを用いて改革を推進する意識の醸成」があると指摘した。
さらに、安部氏はデジタル改革に向けた企業のあるべき姿について、「今後は、技術ではなく企画を起点にして、既存のビジネスを壊してイノベーションを創出し、リーンスタートアップで取り組むべき」とアドバイスした。