シーメンスPLMソフトウェアは3月14日、記者説明会を開き、産業用アディティブマニュファクチャリングが切り開く可能性と、その対応に向けた自社の取り組みについての紹介などを行った。

3Dプリンタによるラピッドプロトタイピングに対する認知度は近年、飛躍的に向上したが、そこから一歩進んだアディティブマニュファクチャリングを推進するためには、最適なパーツを設計し、高い品質を出力することが求められる。この実現には、以下の4つの越えるべき壁がある。

  1. 全体の工程をデジタルスレッド化する必要性
  2. アディティブマニュファクチャリングに最適化された設計を取り入れるための考え方の変更
  3. 出力前に、出力時の課題を排除する必要性
  4. 設計と製造の両面で、手作業によるオペレーションの排除

「これらの課題を克服できれば、アディティブマニュファクチャリングによる大きな価値をカスタマは享受できるようになる」とSiemens PLM Software, Manufacturing Engineering Software, Additive Manufacturing Vice PresidentのAaron Frankel(アーロン・フランケル)氏は語る。

  • 産業用アディティブマニュファクチャリング

    産業用アディティブマニュファクチャリングを活用するために乗り越えるべき4つの課題

また、アディティブマニュファクチャリングを実現することで、シミュレーション上でさまざまな可能性についての検証が行えるようになるだけでなく、製造工程の簡略化や、治具などのコスト削減が可能となる。さらに、製造工程が短くなるほか、手戻りが減ることによる短TAT化や、個別ニーズへの柔軟な対応、在庫の削減といったビジネス全体の変化を生み出すことにもつながるといったメリットを受けることができるようになるともする。

  • 産業用アディティブマニュファクチャリング

    アディティブマニュファクチャリングの活用が産業分野の事業のあり方そのものに変化をもたらす

実際、複数のカスタマが同社のアディティブマニュファクチャリングソリューションを活用しているほか、シーメンスのパワー&ガス事業本部でも活用されるなど、同社の事業における戦略的なイニシアチブとなっており、3Dプリンタに用いられる素材の研究開発から、3Dプリンタのコントロール技術などの研究開発などのハードウェアに関連する各種の開発案件に加え、カスタマが実際に活用するためのソフトウェア開発まで広範な開発リソースが投入されているという。

実際にシーメンスのパワー&ガス事業本部では、ガスタービンの製造を行っているが、アディティブマニュファクチャリングを活用することでタービンのコア要素であるバーナーを改良。従来13個のパーツで構成されていたものを、一体成型で実現することで、性能を向上させつつ、26週かかっていた生産リードタイムを3週に短縮することに成功したとのことで、すでにスウェーデンのガスタービンメーカーに向けて量産出荷が行われているする。

「シーメンスでは、NX、Simcenter、そしてTeamcenterなどをアディティブマニュファクチャリングのプラットフォームとして提供しており、デジタルツインのバーチャル側とリアル側の双方にシームレスに対応することを可能としており、出力された製品の稼動データなどをフィードバックして、次世代品の設計に活かすことなども可能となっている。ラティス構造やトポロジー最適化といった最新技術の活用も可能で、すべてのプロセスで最適化を図ることが、できる限り自動化した環境で行うことが可能となっている」(同)とし、細かい製造後の歪みや反りなども考慮した製造も可能となってきていることを強調。手戻りなしで、精度の高い製品を製造することができるようになるとするほか、将来的には電磁界解析や熱流体解析なども含めた最適化を図ることもできるようになるとし、多くの産業分野で大量生産ラインでの活用につながっていくことが期待できるようになるとした。

  • 産業用アディティブマニュファクチャリング
  • 産業用アディティブマニュファクチャリング
  • アディティブマニュファクチャリングを活用することで、デジタルツインの世界にさらなる付加価値を提供することが可能になるという

また、同社は2018年4月より、産業分野でのアディティブマニュファクチャリング活用を促進するためのエコシステム「アディティブ・マニュファクチャリング・ネットワーク(AMN)」の運用を開始しており、これを活用することで、3Dプリントを利用した部品の設計、製造、製造に必要なツールの利用からグローバルでの調達までアディティブマニュファクチャリングに必要となるすべてを一貫して活用することを可能にしようというもの。同氏は、「データをロードすると、その場で世界中のエンジニアやデザイナーを交えてディスカッションを行うことができる」と、その利便性の高さについて説明する。

  • 産業用アディティブマニュファクチャリング
  • 産業用アディティブマニュファクチャリング
  • クラウドベースのアディティブ・マニュファクチャリング・ネットワークはコラボレーションプラットフォームという位置づけであり、世界中の多くの企業がすでに参画しているという

ただし、アディティブマニュファクチャリング活用の促進には、「アディティブマニュファクチャリングがわかる設計者を増やす必要がある」とするほか、「3Dプリンタの生産能力を向上させていく必要がある」と、ソフト、ハードの両面でまだ課題が残されているとするが、その解決に向けてシーメンスは活動を継続して行っていくともしており、日本でもさまざまな産業分野での活用に向けた取り組みを進めていきたいとしている。

なお、デジタルツインの領域は技術が広範におよぶほか、その進化の速度も速いことから、「破壊的なイノベーションがあちこちで生まれる可能性がある。そうした意味では、その動きを見極めて、エコシステムの中にそうしたものもいち早く取り込むことで、AMNのポテンシャルを今後も高めていきたい」としており、AMNを積極的に打ち出していくことで、競争の激しいデジタルツイン分野での存在感を高めていきたいとしていた。