砂漠のど真ん中で、EV(電気自動車)の充電が切れる。アプリを開いてしばらく待つと、ドローンが高速充電ユニットを持ってきてくれる。数十分で充電が完了し、また車を走らせる――。
「なぜ砂漠でEVを走らせているのか」という疑問はさておき、米スタートアップのSparkCharge(スパークチャージ)が目指すのは、そんな世界だ。
スパークチャージは2014年、ニューヨーク・シラキュース大学の寮の一室で生まれた。それからわずか5年、同社はフォード・モーターやテスラ、メルセデス・ベンツといった自動車業界の雄から熱い視線を送られるようになる。それはいったいなぜか。
米国テキサス州・ダラスにて行われたダッソーシステムズ主催の3次元CADイベント「SOLIDWORKS World 2019(ソリッドワークス ワールド)」に参加していた同社の創業者であり現CEOのJoshua Aviv(ジョシュア・アビブ)氏と、同社CTOのChristopher Ellis(クリストファー・エリス)氏に、スパークチャージのユニークな事業と戦略について聞いた。
「SOLIDWORKS World 2019」 2019年2月11日~13日まで米国テキサス州ダラスで行われた、世界最大級の3次元CADイベント。ダッソー・システムズ・ソリッドワークス(以下、ソリッドワークス)の年次ユーザーイベントであり、世界中のソリッドワークスユーザー、代理店、パートナー企業、ソリッドワークス社員など、合計7000人以上の来場者が一堂に会した。
「マイ充電ステーション」でEV普及へ
地球温暖化をはじめとする環境問題、および世界のエネルギー問題を見越し、自動車メーカーは相次いでEVに参入。出荷台数も年々増加している。各メーカーの努力によって年々航続距離が伸び、より実用的になってきている一方、まだまだ「充電インフラの不足」がネックになっている。
その問題の解決し、EV普及を促進することがスパークチャージのミッションだ。
「大学在学時、EVを所有していた私は、充電インフラが不足していること、そしてその充電スピードに問題を感じました。アメリカのハイウェイには約40マイルごとに1つ、充電ステーションが用意されているのですが、充電には何時間もかかってしまう、非常に効率の悪いインフラだったんです」(アビブ氏)
「迅速に充電ができ、かつ車のトランクに収まるようなものがあれば、いつでもどこでも充電できるのではないか」。そう考えたアビブ氏は、「マイ充電ステーション」というアイデアを思いつき、充電ユニットの開発に取りかかる。その製品はすぐに注目を浴び、出資者・メンターが集まったところで、スパークチャージが誕生した。
【SparkChargeの高速充電ユニット使用イメージ】
優秀なエンジニアとの出会いも、同社の成長につながった。開発担当者のクリストファー・エリス(Christopher Ellis)氏は、元々NASAで衛星に使われる電源システムの開発に携わっていたそう。そのノウハウを活用し、より小さくて軽いユニットで、より急速な充電を行えるようにした。
「元々、充電ステーションは『冷蔵庫』ほどの大きさが一般的でした。私たちの製品ではそれを、『機内持ち込み手荷物』くらいのサイズに小型化することに成功したんです。詳述は避けますが、これまで製造業の現場で利用されていたようなモジュール化技術を用いたバッテリ容量のコントロール、およびNASAで学んだ電力系統技術などを活用している点が、他社との差別化ポイントです」(エリス氏)
5月よりアメリカで導入、今後も広がる可能性
「マイ充電ステーション」に着想を得た同社の目指すところは、コンシューマー向けの充電ユニットの販売だ。ただ、直近で行うのはBtoB向けへの展開であるという。例えば、アプリからの注文で充電ユニットを運び届けるサービスや、自動車ディーラー/ロードサービス事業者への販売、さらにはセブンイレブンなどの店舗への設置も検討中だそうだ。
すでに6~7社が導入を検討しており、2019年5月から各社が事業を展開していくめども立っている。また、2019年末までには米国内で約10社がスパークチャージの製品を使用した事業を展開する見込み。
こうした同社の技術やビジネスモデルに惚れ込み、スパークチャージとパートナーシップを結んでいる企業の中には、テスラやフォード・モーター、メルセデス・ベンツといった、自動車業界の雄たちもある。
同社の事業は、ソリッドワークスワールド2019にて行われた、ダッソー製品群のライセンスを獲得できる「3D EXPERIENCE Pitch」でも高い評価を受けた。ダッソー・システムズのCEOであるベルナール・シャーレス(Bernard Charles)氏やグローバルデザイン誌「CORE77」、STEM教育「BASE11」のトップからなる審査員、およびイベント参加者の投票の結果、見事優勝を果たした。
アビブ氏は今後の展望について、「あくまで可能性の話」と前置きしたうえで、ドローンを用いた遠隔地への充電ユニットの配送、「Uber」や「Lyft」などのライドシェアサービスとの連携も検討しているという。
まだまだ成長段階のスパークチャージであるが、そのポテンシャルは高そうだ。大手自動車メーカーが注目する、SparkChargeの描く「EVの未来予想図」は、今後どのような形で実を結ぶことになるのだろうか。