米宇宙企業スペースXは2019年3月2日、新型宇宙船「クルー・ドラゴン(Crew Dragon)」の無人試験機を搭載したファルコン9ロケットの打ち上げに成功した。
3日には国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングにも成功。今年7月に予定されている有人の試験飛行に向け、重要な一歩を踏み出した。
DEMO-1
今回のミッションは「DEMO-1(もしくは「DM-1」)」と呼ばれ、クルー・ドラゴンにとって初の宇宙飛行となる。無人で飛行し、有人飛行に向けた各種試験を行うことを目的としている。
クルー・ドラゴンの試験機を搭載したファルコン9は、日本時間2019年3月2日16時49分(米東部標準時2時49分)、米フロリダ州にあるケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。
ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約11分後にクルー・ドラゴンを分離。また、ロケットの第1段機体は、大西洋に待機していた回収船「もちろんいまも君を愛している」号に着陸した。
クルー・ドラゴンは予定どおりの軌道に投入されたのち、先端にあるノーズ・コーンの展開なども順調にこなした。クルー・ドラゴンはトラブルなく順調に飛行し、徐々に軌道を変え、国際宇宙ステーション(ISS)に接近した。
そして3月3日19時51分、ISSのハーモニー・モジュール(ノード2)にドッキングした。ドッキングは完全に自動で行われ、スペースX、また米国にとって初めての挑戦だったものの、問題なく成功した。
ドッキングは2段階で行われ、まず最初に「ソフト・キャプチャー」したのち、ドッキング機構の動きによって、約10分後にISSと完全に結合する「ハード・キャプチャー」を完了した。22時7分にはハッチが開けられ、ISSに長期滞在しているアン・マクレイン宇宙飛行士がクルー・ドラゴンに入船。「有人宇宙飛行の新たな時代にようこそ」とコメントした。
今回のクルー・ドラゴンは無人での飛行ではあるものの、船内には各種センサーが取り付けられたマネキン人形が搭乗。"彼女"には、映画「エイリアン」の登場人物にちなんで、「リプリー」という名前がつけられている。
また、無重量状態になったことをわかりやすく示すためのセンサー代わりに、地球を擬人化したぬいぐるみも搭載。さらに、約180kgの物資や機器も搭載していた。
スペースXのイーロン・マスクCEOは「2002年の会社設立から、ここに至るまでに、17年かかりました。多くの人々の努力と困難がありました。とくにNASAの協力がなければ、今日という日は存在しなかったでしょう」と語った。
ISSには約5日間係留される予定で、3月8日16時30分ごろにISSから出航。約5時間後にスラスターを噴射して軌道から離脱し、カプセルは大気圏に再突入し、パラシュートを開いて降下。大西洋に着水したのち、船で回収されることになっている。
クルー・ドラゴン
クルー・ドラゴンは、スペースXが開発した有人宇宙船で、宇宙飛行士をISSに輸送することを目的としている。
スペースXにとって、有人宇宙飛行は設立以来の目標のひとつだった。また、米国航空宇宙局(NASA)は2005年に、スペース・シャトルの引退と有人月・火星探査への注力を見越し、ISSへの物資、そして宇宙飛行士の輸送を、民間企業に任せる計画を立ち上げた。
スペースXはそれに応える形で、NASAからの資金提供や技術協力をもとに、ファルコン9ロケットとドラゴン補給船を開発。2012年からISSへの物資補給を定期的に実施している。そして、それに続く形で、ドラゴンをもとにしつつも、まったく新しい設計を採用した、クルー・ドラゴンが開発された。
クルー・ドラゴンの全長は8.1m、直径は4mで、打ち上げ時の質量は約12t。カプセルには最大7人が搭乗でき、地球とISSとの往復や、月へ飛行できる能力をもつ。また、宇宙飛行士だけでなく、訓練は必要なものの、一般の宇宙旅行者が乗ることもできる。
機体は大きく、宇宙飛行士が乗る「カプセル」と、物資や機器を搭載する「トランク」の2つの区画に分かれている。
カプセルは10回程度の再使用ができ、運用コストの低減が図られている。ただし、NASAとの契約では、宇宙飛行士が乗るのはカプセルの最初の飛行のみで、2回目以降は無人の、補給物資を載せた補給船として使用される。
トランクには、側面の半周にわたって太陽電池が、もう半周にはラジエーターを装備。また、打ち上げ時の脱出時に機体を安定させるための4枚のフィンももつ。なお、トランクは使い捨てで、大気圏再突入前に分離され、ISSで発生したゴミを搭載した状態で、大気圏で燃え尽きる。
早ければ7月にも有人の試験飛行へ
今回のDEMO-1ミッションが成功すれば、いよいよ宇宙飛行士が乗った有人飛行試験「DEMO-2」が行われる。DEMO-2に搭乗するのは、ロバート・ベンケン宇宙飛行士と、ダグラス・ハーレイ宇宙飛行士の2人。現時点で、打ち上げは今年7月以降に予定されている。
なお、大手航空宇宙メーカーのボーイングも、「スターライナー」と呼ばれる宇宙船を開発しており、今年4月以降に無人での試験飛行を、8月以降に有人の試験飛行を予定している。
また、両社とも飛行中のロケットから宇宙船を脱出させる試験も行う予定で、ボーイングは5月に、スペースXは6月に実施を予定している。
これらの試験飛行の結果を受け、NASAが最終的な審査を行い、それをクリアすれば、正式に宇宙飛行士の輸送サービスが始まる。
2011年のスペース・シャトル引退後、米国はISSへの宇宙飛行士の輸送を、ロシアの「ソユーズ」宇宙船に委ねざるを得ない状況が続いている。今後、クルー・ドラゴンとスターライナーが完成すれば、「米国の地から、米国の宇宙船による、米国の宇宙飛行士の打ち上げ」が復活することになる。
輸送サービスの開始は2019年の秋に予定されているが、しかしスペースXのクルー・ドラゴン、ボーイングのスターライナーともに、まだ技術的な課題や問題点が残っているとされ、2019年の年末から、2020年へずれ込む可能性もある。
なお、本誌では近日中に、クルー・ドラゴンの開発の経緯から、機体の詳細、今後の展望などについてまとめた連載を開始する予定です。ご期待ください。
出典
・Crew Demo-1 Press kit
・NASA, SpaceX Launch First Flight Test of Space System Planned for Crew | NASA
・Demo-1 Launch Ushers in ‘New Era in Spaceflight’ - Commercial Crew Program
・CREW DEMO-1 MISSION | SpaceX
・Dragon | SpaceX
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info