OKIのEMS事業本部は、同社本庄工場に2億円を投じ、新たなプリント基板製造ライン「大型高密度SMTライン」を2019年2月より稼動させた。国内で高品質プリント基板の製造能力を強める背景はどこにあるのか、実際に新造された生産ラインを取材した。
高品質・高信頼性を武器に事業を拡大
同社の本庄工場はもともと情報通信機器の製造を担う拠点として位置づけられ、品質や信頼性が求められる電話機や交換機などの生産を担ってきた。そのため2002年にEMS(設計・生産受託サービス)事業が立ち上げられて以降も、そうした高品質・高信頼性が求められる分野を中心に事業を拡大。現在では、産業機器、計測機器、医療機器などの分野からの受託製造を請け負うほか、近年ではエレクトロニクス化が進む自動車分野や航空宇宙分野などからも声がかかるようになってきたという。
また、OKI本体のみならず各種関連企業とも連携しており、設計からプリント基板設計、実装、装置組み立て、そして依頼主ではなく、その出荷先のエンドユーザーへのダイレクト配送まで、トータルサービスとして提供できるほか、海外の製品を輸入して、検査などを行って、それをエンドユーザーに届けるステージングサービスなど幅広いサービスを提供するに至っている。
なぜこのタイミングで設備投資を行ったのか
こうした事業の拡大の一環として、今回同社は大型高密度SMTラインを導入したわけだが、その背景としては、IoTの広がりなどによる半導体市場の拡大(およびそれに伴う製造装置市場の活況)や自動車のエレクトロニクス化、データセンター需要の増加、そして5Gの実用化に向けた基地局への設備投資の加速といった高品質・高信頼性が求められる市場の活性化がある。
また、これまでも高性能化による処理速度の向上に伴う配線数の増加などによるプリント基板の大型多層化に対するニーズは高まりを見せていたのだが、ここにきてさらに、小型の実装部品を実際に搭載する必要性がでてきたという事情も今回の設備投資を後押しさせた背景にあると同社は説明する。
同社の予測では、2019年以降0603の電子部品の実装ニーズが高まり、2020年後半からはさらに顧客によっては0402の電子部品の実装が求められるようになるとのことで、こうした小型電子部品を大型多層プリント基板に大型の半導体チップと混載していく実装技術を構築する必要があったという。
とはいえ、言うは易し行うは難しである。実際に大型多層基板を生産ラインに流そうと思うと、多層であるが故に重量があるため、それをきっちりと搬送する技術を開発する必要があったほか、大型多層基板の全体を加熱してはんだの融解を制御する技術の開発、大型化することに伴う部品点数の増加に対するスループットの向上など、実にさまざまな技術を開発する必要があったという。
結果として、これらの課題を解決するさまざまな技術を開発することに成功。新SMTラインは、従来ラインに比べて対応基板サイズは1.2倍となる610mm×600mm、厚みは従来の6mmから10mm、重量も6kgから10kgまで対応した。また、マウンタの部品セット数も従来の546種(リール450種+トレイ96種)から666種(リール570種+トレイ96種)と増加させつつも、生産切り替え時間は20%削減することに成功したほか、搭載速度も1部品あたり0.14秒から0.10秒に高速化し、かつ搭載精度も従来の±0.038mmから±0.025mmへと高速化することに成功したという。さらに、先述したはんだ融解を担うリフロー炉も、温度ばらつきを従来の15℃から7℃へと高精度な制御を可能としたほか、加熱時間の微細な制御を可能とする制御方式や搬送力の強化なども行うなど、高品質加熱を実現している。
まだまだ終わらない技術開発と設備投資
なお、同社では、顧客の製品設計から製造まで一括して請け負うことで、顧客の固定費を変動費化してもらい、その浮いた費用でさらなる商品開発や商品の販売に注力してもらうことを目指し、生産ライン全体のレベルアップを今後も継続的に行っていくとしており、自社エンジニアの技術レベルの高さと、最新鋭の生産設備に対する投資による基板サイズのさらなる大型化と実装部品の小型化というある意味、二律背反する課題への対応を続けていくことで、より幅広い分野からサービスを活用したいという要望を受け付け、さらなる事業の拡大を図って行きたいとしている。