半導体産業の成長は、半導体メーカーが1チップに、より多くの性能と機能を搭載して提供することによって売り上げをどれだけ伸ばせるかにかかっている。しかし、ムーアの法則に代表される現在の主流であるCMOSプロセスが理論的、実用的、そして経済的な限界に近づくにつれ、半導体製造コストを(機能ごとまたは性能ごとに)下げることはさらに重要になっているが、同時にその困難さも増してきており、各半導体メーカーは、その性能と機能のさらなる向上に向けたさまざまな技術革新に取り組む必要がでている。

市場調査会社の米IC Insightsが、ロジックICメーカーおよびファウンドリの微細化プロセスの量産への導入の進捗状況を調査したところ、同社は各社の製造プロセスがこれまで以上に多様化していると指摘している。具体的には、次世代のプロセス世代に移行する前に現行世代のプロセスに対して、派生・改良バージョンを複数提供するようになってきているのだ。

  • 半導体メーカープロセスロードマップ

    ロジックICメーカーおよびファウンドリの量産向けプロセスのロードマップ。「世代」や「量産」開始の定義は、企業ごとに異なっており、一部マーケティングを有利に展開するために過度にアナウンスされている部分があるとも言える。次世代プロセスへの移行時期もあくまで目安で、必ずそのとおりに行くとはいえないのが実情である (企業情報、会議レポートに基づきIC Insightsが作成)

先端プロセスをリードしてきた各社の動向

2019年2月時点での主要ロジックICメーカーおよびファウンドリの量産向けプロセスロードマップをまとめたIC Insightsのレポートによると、ロジック分野最大手のIntelは2018年末に最新世代となる第9世代プロセッサ「Coffee Lake Refresh(あるいはCoffee Lake-S Refreshとも呼ばれる。いずれも開発コード名)」を発表したが、Intelがいうような新世代の製品ではなく、第8世代の機能強化版と見る向きが強い。プロセスの詳細は不明だが14nm++プロセスの改良版、あるいは14nm+++と呼ばれるプロセスを採用している模様だ。

また、2019年中に10nmプロセスを採用した新製品を投入する計画で、2018年12月に発表された「Sunny Cove」アーキテクチャを採用したプロセッサファミリ(Ice Lake。開発コード名)から適用される見込みである。SunnyCoveアーキテクチャは、基本的には2019年にリリースされるはずだったCannon Lakeアーキテクチャに取って代わったものと見られる。加えて同社は、2020年に、10nmプロセスの派生版である10nm+プロセスの量産導入を計画しているという。

一方、最大手ファウンドリであるTSMCは、7nmプロセスの生産をすでに開始。同社はこの7nmプロセス世代を、28nmや16nmプロセス同様、長い間活用されるプロセスになると見ている。

また同社はすでに5nmプロセスの開発を進めており、2019年前半のリスク生産、2020年の量産開始を計画している。5nmプロセスではEUVが導入されるが、先だって7nmプロセスの改良版N7+プロセスに導入する見通しだという。N7+プロセスはEUVをクリティカルレイヤ(4レイヤ)にのみ使用する7nmプロセスで、2019年第2四半期からの量産導入が予定されているという。

先端プロセスを提供できるファウンドリとして、TSMCの対抗馬として近年注目を集めるようになってきたSamsung Electronicsは、2018年初頭から10LPP(Low Power Plus)と呼ばれる第2世代の10nmプロセスの量産を開始。2018年後半には、さらに性能を向上させた10LPU(Low Power Ultimete)と呼ばれる第3世代10nmプロセスを発表している。

同社の10nmプロセスはトリプルパターニングのリソグラフィを採用したもので、TSMCのように7nmではなく、こちらの10nm(派生の8nmプロセス含む)が、長いライフサイクルのプロセスになると見ている。

とはいえ、先端プロセスの提供は辞めておらず、2018年10月には、液浸ArFを用いずにEUVを用いた7nmプロセスのリスク生産を開始。この7nmプロセスでは、8-10レイヤ程度にEUVを適用させている模様だという。

そして7nm以降のCMOSプロセスの微細化開発の凍結を決定したのがGLOBALFOUNDRIES(GF)で、現在同社は、22nm FD-SOIプロセス(22FDX)を14nm FinFETプロセスを補完する技術として売り出している。同社では、22FDXは、14nm FinFETプロセス並みの性能を発揮できるが、製造コストは28nmプロセス並みで済むとしている。

同社が7nmプロセス以降の微細プロセスの開発を中止した背景には、巨額の費用がかかる一方で、それを使用したい顧客が少ないという判断があったようだ。その結果、同社は14nmおよび12nmのFinFETプロセスとFD-SOIプロセスの研究開発に重点をシフトさせる戦略を採用するに至っている。

なお、半導体プロセスのロードマップであった国際半導体技術ロードマップ(ITRS)は2015年に終了しているため、現在、各社が採用しているプロセスの数値については、明確な定義をするのが難しく、コマーシャル的な意味合いが強い側面に注意する必要がある。