法律も時代に合わせて変化しなければならないことがある。電気や情報が刑法窃盗罪が意図する"物"ではないために、立法により対応してきた歴史がわかりやすい例だ。しかし、人としての自由や権利を明示する憲法は慎重に扱われなければならない。アジアでは、権利ではなく刑罰を中心とした"律令"は遙か昔、遡ること2000年以上も前の時代、かの"キングダム"の時代にも存在し、始皇帝より前、秦の政治家商鞅(しょうおう)も実践している。幾度にもおよぶ変法と呼ばれる法制変更は、後の始皇帝以降とつながる基盤を作ったとも言われているが、"急激な変更"が混乱を招いている。ニーズへの対応と安定性という法の持つ難しさは遙か昔から故事として残っている。
北カリフォルニアの連邦判事は1月、警察が容疑者に指紋、顔、虹彩といったバイオメトリクスを用いた認証により、スマートフォンのロック解除を強制することはできないとの判断を下した。パスコードを言わされることと同じ自己負罪になるという考えからだとLisa Vaas氏が英国セキュリティベンダーSophosのオウンドメディアNaked Securityに寄稿している。他の裁判所も今回の判断に倣うことになれば、重要な判例になると指摘している。
Lisa Vaas氏はForbesの記事や公文書資料(ジャーナリズムのソース共有クラウドDocumentCloud)へのリンクを貼りながら、指で入力、顔や光彩を使うものなどその手段は問わずにWestmore判事は今回、米国憲法修正第4条と第5条を根拠に捜索令状の要請を認めないとの判断を示したことになるとしている。
Lisa Vaas氏は、これまでパスコード情報と生体認証を使ったデバイスのロック解除が関連したこれまでの裁判所の判断の変遷の例を挙げている。
・2014年、救急医療(EMS)のリーダーが自分の交際相手を窒息死させようとしたという容疑で逮捕された際、警察はパスコードではなく、指紋を使ったスマートフォンのロック解除を強制して良いと判事は判断した。この時警察は容疑者の寝室に争いの様子を収録した動画があるのではないかと探していた。
・2015年、ペンシルバニア州連邦地区裁判所は、インサイダー取引事件において、修正第5条によりパスコードは保護されると判断した。
・2016年、ロサンジェルスの判事は、容疑者に対し自分の指を使ってiPhoneのロック解除を強制した。この時警察は、ギャングメンバーの交際相手が関係した事例で証拠を得ようとしていた。
・2018年10月、顔認証を使ってiPhoneのロック解除を強要する初の事例が登場した。
決定的な証拠となるデバイスデータを捜査当局が解除を強制している点を争う裁判だ。憲法修正第4条と第5条では、令状主義(令状によらない逮捕や押収の禁止)や法の適正な手続きが記されているが、Kandis Westmore判事は、法廷は現在、「法のスピードを超えて進展する技術」という問題に直面していること、先に米国の最高裁が「すでに使われている、あるいは開発中であるより高度なシステムを考慮に入れて」ルールを適応させる必要があると言い渡したことに言及。2018年6月、最高裁は警察と連邦機関が逮捕状なしに携帯電話の位置情報記録にアクセスすることは違法だとする見解を示し、当時の裁判所は「憲法の権利を守る義務がある。技術が進化したからといってこれらの権利が損なわれることがあってはならない」としている。
Lisa Vaas氏他の法廷が従うという保証はないが現時点で言えることは、もしデータプライバシーを気にしているのなら、生体認証ではなくパスコードを使った方が良いということだろう。このアプローチの場合、プライバシーは多くの裁判所で保障されている(*パスコードは頭の中にあるので強制されない)。