鹿児島県の桜島は、日本でもっとも名の知れた火山のひとつだろう。麓でわく温泉につかりながらその姿を前にすると、まさに雄大でとてもよい気分なのだが、しばしば噴煙を上げて火山灰を降らせ、地元の暮らしを困らす火山としても有名だ。

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    図 桜島の地下の概念図。桜島は、かつて巨大噴火を起こした際にできた「姶良(あいら)カルデラ」の周縁部にできた火山。マグマだまりは姶良カルデラの海底下10キロメートルにある。そこから上昇したマグマは、桜島の下にある深さ4~5キロメートルの副次的なマグマだまりを通って火口に至る。今回の研究で明らかになったのは、この副次的なマグマだまりより浅い地下1~3キロメートルの火道内にマグマがしばらく滞留する現象だ。(新谷さんら研究グループ提供)

こうした小規模な噴火を繰り返す桜島は、室町時代以降に3回の大噴火を起こしている。1471年の文明噴火、1779年の安永噴火、1914年の大正噴火だ。いずれも多数の死者が出た。およそ300年、130年の間隔で起きていて、最後の大正噴火からすでに100年以上たっている。大正噴火のあとで発生した地盤沈下は、すでに噴火前のレベルにほぼ戻った。次の大噴火がいつ、どのように起こるかわからないだけに、過去の大噴火がどうやって起きたのかを新しい科学の目で探っておくことは大切だ。

火山の地下には、岩が熱く溶けた「マグマ」がたまっている「マグマだまり」がある。ここからマグマが上昇してきて地上に噴き出せば噴火だ。桜島の場合、マグマだまりの本体は地下10キロメートルくらいのところにあり、そこから上がったマグマが火口への通り道である「火道」を通過して噴火に至る。そう考えられてきた。

ところが、東北大学大学院博士課程の新谷直己(あらや なおき)さん、中村美千彦(なかむら みちひこ)教授らの研究によると、大正噴火のような大噴火の直前には、マグマは火口直下の火道までせりあがって、そこにしばらくたまっているようなのだ。この段階で地面の変動をとらえれば、直前の避難につなげられる可能性がある。

新谷さんらは、過去3回の大噴火で噴き出た溶岩を分析した。マグマが冷えて固まった岩石には、「斑晶(はんしょう)」とよばれる結晶が形成される。そこに含まれている水分の含有量をもとに岩石ができた深さを推定したところ、1~3キロメートルくらいであることがわかった。火口のすぐ下といってもよい浅い地下だ。つまり、マグマは深い地下から一気に上昇して火道を通過したのではなく、火道にしばらくとどまって、ここでしばらく時間をかけて斑晶ができた。この岩石ができるのに必要な時間などから推定すると、数十日は滞留していたようだという。

桜島の過去の大噴火は、火口を目前にした火道でマグマがいったん滞留し、そこからあらためて噴き出すという推移をたどったことがわかった。これほどの量のマグマが浅い地下に上昇してきて滞留すれば、それを地面の変動としてキャッチできるはずだと中村さんはいう。噴火が近づいたことの警告に使える可能性がある。だがその一方で、地下1~3キロメートルの浅いところまでマグマは来ているのだから、そこから噴火に至るまでの時間は、きわめて短いかもしれない。

中村さんによると、火口目前の浅い地下でマグマが滞留するこうした現象は、これまであまり注目されてこなかった。もしかすると、これは桜島に特有の現象ではなく、調べてみれば他の火山でも見つかる可能性がある。日本では、火山より地震による大災害のほうがしばしば起こるので、防災の目はどうしても地震に向きがちだ。もちろん、それはそれでよいのだが、かつて起きた富士山の大噴火や、九州の縄文文化を滅ぼしたとされる「鬼界(きかい)カルデラ」の超巨大噴火を思いおこすまでもなく、火山の噴火による災害の規模はきわめて大きい。それを私たちはリアルに感じられていない。新谷さんらのような研究が、将来の火山噴火に向ける社会の目に現実感を与えることにも期待したい。

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