出会いがない、理想の相手が見つからない......と、一度は悩んだことのある読者の方も多いのではないだろうか。恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」を運営するエウレカでは、同アプリに機械学習自動化プラットフォームを導入している。今回、同社 Pairs事業部 Development責任者の森川拓磨氏に導入の経緯や今後の可能性などについて話を聞いた。

  • エウレカ Pairs事業部の森川拓磨氏

    エウレカ Pairs事業部の森川拓磨氏

同氏は文系大学の出身。IT系会社に新卒で入社し、Webアンケートシステムの構築・運用を手がけるインフラ担当者を経て、2014年にエウレカに入社、現在はサーバサイドのアプリ開発を担っている。

投稿監視と検索アルゴリズムの2分野に導入

エウレカが導入している機械学習自動化プラットフォームは、DataRobotが提供する「DataRobot」だ。

同プラットフォームは、ドラッグ&ドロップでのデータの配置、GUIをベースにした操作、データシートにはRやscikit-learn、TensorFlowやVowpal Wabbit、XGBoostなど、多くの機械学習に関わるライブラリに加え、分散処理のHadoopをはじめ、多くのオープンソース技術もプラットフォームに活用している。

現在、同社では「投稿監視」と「検索アルゴリズム」の2分野に同プラットフォームを導入している。

まず、はじめに取り組んだのは投稿監視の領域だ。従来の投稿監視は、カスタマーケアのチームがユーザーの投稿が不適切なものではないかを24時間監視(ex.暴力的な表現や卑猥な表現などの有無)していたが、この領域であれば機械学習との相性も良いのではないかと判断し、2016年5月~夏にかけてPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施。

当初はMicrosoft AzureやGoogle Cloud Platform(GCP)、Amazon Web Services(AWS)など、メガクラウドベンダーの機械学習システムをDataRobotと比較検討したが、当時はチューニングや理想的なモデル、エンジニアでなければ使えないなどの理由により、容易に扱えることも加味してDataRobotでPoCを実施することにした。

加えて、同社のサービスはAWSと一部GCPを利用しており、メガクラウドベンダーのシステム導入は苦ではなかったものの、機械学習に関しては当時は適切な人材もいなかったため、DataRobotが適していると判断。

PoCでは、カスタマーケアが判定を行った結果をDataRobotに与えてモデルを構築し、ある程度の調整は必要なものの、精度が高いものになったという。

ただ、導入に関して役員と話し合いをした際に、業務オペレーションの効率化よりもUX(User Experience)の向上を図る方が直接ユーザーにメリットをもたらすことに加え、検索アルゴリズムの質が高い場合、そのほかのマッチングアプリとの差別化要因の1つになり、導入を決定付けることができるため、検索アルゴリズムにも注力することにした。

“AIの民主化”で得られた効果とは

それまで、同社の検索アルゴリズムはルールベースにより、マッチングするであろう人物をユーザーにレコメンドしていた。しかし「相手を探す→いいね!→相手からいいね!→マッチング→メッセージ」のフローの中で、例えばいいね!を向上させるためアルゴリズムに調整を加えると、それ以外の重要なKPIが下がるなど、フローの他の部分に影響を及ぼす可能性があったという。

また、従来のアルゴリズムはコードが難解だったことに加え、手動でパラメーターの調整を行うため効果的ではなく、検索アルゴリズムに手を加えたいものの全社的な影響を考慮し、導入を躊躇していたという。

そのため、まずはDataRobotのPoC前にABテストが可能な環境を構築し、既存のアルゴリズムとの比較を実施。何度かテストを重ね、変数に手を加え、チューニングなどを行った結果、いいね!の送信率が既存のアルゴリズムと比較して1%、マッチング率が3~4%それぞれ上昇した。

効果の一例としては、容姿端麗な女性や年収の高い男性など、従来は上位のユーザーに集中しがちなマッチングが多様な人にも提示されるようになり、改善することができたという。結果として、UXの向上が図れると考え、2017年から本格導入することを決断する。

森川氏は「DataRobotは統合的にCSVを与えるだけで、理想的なモデルが構築できたことに加え、モデルに対して変数の効果測定も判断でき、効果がなければ該当する変数を外し、別の変数を加えることが誰でも比較的容易にできるものだと思いました」と、手応えを口にする。

  • エウレカ Pairs事業部の森川拓磨氏

また「DataRobotの思想は“AI(人工知能)の民主化”であることから、使い方の補助さえすれば誰でも自在に使えるようになるため、弊社と相性が良いと感じました」とも森川氏は語っている。

今後はCRMや広告などに適用

そして、検索アルゴリズムの今後の可能性についても森川氏は触れた。DataRobotを導入した際は精度向上や最適化の側面が強かったものの、今後は「あなたには、この人がマッチングします」ではなく、どちらかと言うと「あなたには、こんな意外な人がマッチングします」と、選択の幅を広げるアルゴリズムの構築を目指し、人間では気付かない相関関係を機械学習により、実現していくという。

さらに、DataRobotを活用していないが、現在は機械学習により画像認識と不正ユーザー監視の分野で検証も進めている。

将来的には、CRMや広告の最適化といったマーケティング領域や、ファイナンスモデルのような経営領域への適用も想定している。

機械学習とマッチングしたPairs。現在では、多くの企業においてAIの導入は加速しているが、どの領域に組み込めば効果を出せるのか判断がつかない場合もある。その点、エウレカの場合はDataRobotの導入により、ユーザーセントリックという文脈の中で効果を発揮していると言えるのではないだろうか。今後もPairsの進化に期待したいところだ。