鏡に映る自分の姿を認識できる魚を初めて確認した―。こうした研究成果を大阪市立大学とドイツ・マックスプランク研究所などの研究グループがこのほど、米科学誌「プロスバイオロジー」電子版に発表した。熱帯、亜熱帯に生息する魚の実験から導き出した興味深い発見だ。
大阪市立大学大学院理学研究科(動物機能生態学研究室)の幸田正典教授らの研究グループによると、鏡に映る自分の姿を認識できる能力は「鏡像自己認知」能力と呼ばれ、人間以外では、高度な社会生活を送り、高い認知能力を示すチンパンジーやイルカ、ゾウ、カラスなどにもあることが知られていた。
今回の実験対象になったのは、「ホンソメワケベラ」と名付けられた海水魚。この魚は体長10~10数センチ。太平洋やインド洋などの熱帯、亜熱帯の海に生息し、日本でも南日本の海で見られるという。大きな魚の表面などに付いた寄生虫を食べて「掃除」することで知られている。
研究グループは、ホンソメワケベラを水槽に放した上で鏡を入れて観察するという実験を続けた。10匹の魚を放した実験の結果、大半の魚が最初は自分の鏡像を同種のライバルと勘違いしたとみられ、鏡像に向かって攻撃した。攻撃行動は実験初日が最も顕著でその後減って実験7日目にはそうした行動は見られなくなった。その一方で、時間が経つにつれて鏡の前で逆さまに泳ぐといった不自然な動きを繰り返す魚が増加。3、4日目には不自然な動きの一匹当たりの平均頻度は最も高くなった。しかし、さらに時間が経つとそうした行動は減っていき10日目までにほとんどみられなくなった。
そして、鏡に映る自分の像を頻繁に見てのぞき込む様子が目立つようになったという。こうした変化はチンパンジーの「自己認知」の成立過程とよく似ており、研究グループはホンソメワケベラも鏡像自己認知ができたとみている。
別の実験では、ホンソメワケベラの喉に寄生虫を模した茶色の印を付けて水槽に放って鏡を入れた。すると、鏡像の喉に付いた茶色の印を頻繁に見た後、ほとんどの魚が水槽の底に喉を何度もこすって取り除こうとした。透明な印を喉に付けた実験や、茶色の印を付けても鏡を入れない実験では、こうした行動は観察できなかった。研究グループは、自分の喉に寄生虫が付いたと勘違いして取り除こうとしたとみている。
研究グループはこれらの実験結果から、ホンソメワケベラは鏡像を自分の姿と認識できる、と判断した。今回の実験結果からはホンソメワケベラのこうした能力が他の魚類にもあることは示していないが、幸田教授は「魚類の記憶力や認知能力は低いと昔から考えられてきたが、今回の研究成果は魚にも高度な知性や洞察力があることを示唆している。我々は大きな勘違いをしていたのかもしれず、ヒト中心ではなく魚類を含めた脊椎動物の知性を見直すべき時がきていると思う」などとコメントしている。
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