インフルエンザウイルスをたった1つでも検出できる超高感度の検査法を東京大学の研究グループが開発した。現在の検査法の最大1万倍も高感度で、うがい液からも検出できたという。ウイルスが少ない発症直後の検査も可能とみられ、早期診断の徹底による流行の防止につながると期待されている。研究成果はこのほど英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に掲載された。
東京大学大学院工学系研究科の田端和仁講師、皆川慶嘉主任研究員、野地博行教授らの研究グループが開発に成功したのは、極めて微小な空間にインフルエンザウイルス1つを閉じ込めて検出する方法で、「デジタインフルエンザ検出法」と名付けられた。現在の検査法は抗原抗体反応を利用する方法で「イムノクロマト法」と呼ばれる。インフルエンザウイルスのほか、ノロウイルスやアデノウイルスの検出などに広く使われているが、ウイルスの量がある程度ないと有無を判定できない。
研究グループの田畑講師らは、インフルエンザウイルスの表面にはキノコのように突出した形の酵素があることに着目。この酵素によって分解されると蛍光を発する「蛍光基質」を微小容器に閉じ込めて蛍光の状態を観測すればウイルスの有無を判定できると考えた。そして新検査法として実用化するために、1平方センチメートルに極めて微小な容器が60万個も並んだ微小のアレイを特殊技術で開発した。このアレイにウイルスと蛍光基質を混ぜた溶液を入れてみたところ、ウイルス1つが極微小容器内に閉じ込められて蛍光を発している様子を観察できた。このため、蛍光を発する微小容器の数を数えることによってウイルスの数や濃度を調べることができることが分かったという。
研究グループが、このデジタルインフルエンザ検出法の精度を調べるために、実際に患者のうがい液を用いてウイルスの検出を試みた。その結果、イムノクロマト法では検出できない検体からもウイルスを検出することに成功。同法の最大1万倍も高感度に検出できることも確認できた。現在多くの診療所では、インフルエンザに感染したかどうかの診断に鼻腔拭い液を使っている。デジタルインフルエンザ検出法は、だ液やうがい液などでも判定できて負担が小さい診断法の実用化につながるという。
研究グループによると、新検査法を診断に本格的に導入できれば、より早期の診断も可能。初期症状のうちから適切な手当をすることによって症状の重篤化や流行を抑えることにつながることが期待できる。この研究は、内閣府・総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として進められた。
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