日本の少子高齢化は今後も進むことが予測されており、そこから、人手不足、医療費増大といった課題も生じる。こうした社会課題に対し、オムロンヘルスケアは先進的なヘルスケアデバイスを開発するとともに、ヘルスケアデバイスとそのデータ連携サービスを拡大することによって、解決を目指している。
今回、オムロン ヘルスケア 国内事業部 事業開発部 データソリューション課の松田高明氏に同社のヘルスケア事業について聞いた。
ヘルスケアに関わる日本の社会課題とは?
オムロンヘルスケアは「循環器事業」「呼吸器事業」「ペインマネジメント事業」をコアの事業領域としている。「循環器事業」において販売している主力製品が「血圧計」だ。松田氏によると、同社の血圧計は世界110カ国以上で利用されており、シェアはグローバルで50%、国内で70%に上るという。
同社は血圧計を活用することで、脳卒中や心筋梗塞といった高血圧に起因する脳・心血管疾患(イベント)の発症をゼロにする「ゼロイベント」を実現しようとしている。
高血圧改善フォーラムの調査では、国内に高血圧者が4300万人いながら、降圧できている人はわずか13%という結果が出ている。高血圧を放置していると、脳卒中や心筋梗塞を患うおそれがある。そこで、同社は、高血圧への関心を高めて日頃から血圧を測定するような行動変容を促すことで、高血圧に起因する疾患を防ごうとしている。
松田氏によると、血圧と一言で言っても個人によって傾向が異なり、それを分析することで、注意すべき点も明らかになるという。血圧の傾向を把握するには、血圧をきちんと測定する必要がある。
そして松田氏は、世界中で生活習慣病の増加による医療費増大といった課題が生じているほか、日本では「平均寿命と健康寿命に約10年の隔たりがある」という課題が生じていると指摘する。同社はこうした社会課題を解決すること目標としている。
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことをいう。そのため、平均寿命と健康寿命に隔たりがあると、生きてはいるけれども健康には暮らせない期間ができてしまうことになる。健康に暮らせる期間は長ければ長いほどいいと考えるのは、人間として当然だろう。
バイタルデータを外部サービスと連携するプラッフォームを構築
そのための具体的な施策の1つが「OMRON Connect」だ。これは、同社のヘルスケアデバイス(血圧計、体重体組成計、活動量計)が収集したバイタルデータを同社のクラウド環境で管理し、APIなどを介して地域の健康・医療サービスにつながる仕組みを提供するプラットフォームだ。
ヘルスケアデバイスのユーザーは専用のスマーフォンアプリによって、データをクラウドに伝送し、自身のデータをパネル形式やグラフ形式で閲覧できる。クラウドに伝送されるデータは、デバイスのタイプにもよるが、血圧のほか、脈拍、体重、体脂肪率、歩数、消費カロリーなどだ。
血圧管理機能「かんたん血圧日記」では、測定した血圧をスマートフォンで記録して、その傾向を見ることができる。データは「血圧手帳」としてPDFファイルに変換して、メールで送信して印刷し、医療機関に持参することも可能だ。
また、専用アプリからは連携可能なアプリを起動してデータを活用することができる。既に60社以上のアプリと連携している。
バイタルデータの収集と聞いて、気になるのはセキュリティだ。OMRON ConnectのクラウドではすべてのデータをIDで管理しており、個人データは持っていないそうだ。外部のアプリと連携することで、個人と関連づけることが可能になる。
データの連携はアプリ連携方式とクラウド連携方式に対応しており、自社のサービスに合わせて、連携の手段を選ぶことができる。いずれの場合も、手間のかかるデバイス通信部分の開発はOMRON Connectが吸収するため、APIだけでデータを連携が可能。特に、アプリ連携方式はスマートフォン内のローカルでデータの受け渡しが可能となっており、OMRON Connectをバックグラウンド動作させることで、連携先アプリだけの世界観を構築することもできる。
そのほか、人が集まるイベントなどでの利用を踏まえ、スマートフォンを使わずに共有機器や個人の データを伝送する仕組み「OMRON Connect Pro」も用意している。
ゼロイベント実現に向けたデバイスの開発構想
血圧計で圧倒的なシェアを持つ同社だが、血圧計の開発は現在も進めている。例えば、先に紹介した「ゼロイベント」の実現に向け、血圧測定の頻度を上げるため、スマートウォッチ型のウェアラブル血圧計を開発した。
ウェアラブルであれば、いつでもどこでも血圧を測定することができる。これにより、今まで見えていなかった血圧の状態を明らかにすることができる。スマートウォッチ型ウェアラブル血圧計では、血圧に加え、活動量や睡眠の状態もチェックして、日々の健康を管理する。
加えて、24時間連続、1拍ごとの血圧を測定する技術開発も行っている。「一般的に、就寝中は血圧が下がると言われているが、 24時間連続して血圧を測定することで、寝ている間も血圧が上昇していることがあれば、就寝中に無呼吸になっている可能性も 考えられる」と松田氏はいう。これまで見逃されていた高血圧をとらえる。
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OMRON Connectによって、ユーザーは自身の健康を管理して増進することが可能になり、企業はバイタルデータを活用してサービスを提供できるようになる。
松田氏は「これまでの取り組みによって『血圧計と言えばオムロン』と言われるまでになった。今度は、バイタルデータのプラットフォームで信頼性を獲得し、『』バイタルデータならオムロン』と言われるようになりたい」と、今後の抱負を語る。
「健康」は個人の幸せにとどまらず、日本という国家の繁栄にも大きな影響を及ぼす。同社の取り組みに期待したい。