デンマークECCOとダウのコンシューマー・ソリューションズ事業部は、3D技術を活用し、顧客の足の形を店頭で解析、顧客の足にフィットした3Dカスタマイズシューズをその場で作って提供する「QUANT-U(クアントゥー) カスタマイゼーション・プロジェクト」を、2019年2月20日より、日本で本格展開していくことを明らかにした。
同プロジェクトは、これまでECCOの研究開発拠点「イノベーション・ラボ・ECCO(ILE)」が設置されているオランダで実験的店舗(コンセプトストア)として展開された程度で、商用展開は日本が世界に先駆けて初めてとなる。
欧州企業がなぜ、欧州市場ではなく日本市場で先んじて本格的な展開を行うことになったのか。その背景について、ECCOにてILE代表を務めるパトリッツィオ・カルッチ氏は、「日本法人であるエコー・ジャパンの代表取締役社長を勤める犬塚景子氏が、この技術に惚れ込み、強烈に誘致をしたという面もあるが、クラフトマンシップとテクノロジーの両側面に対し、理解が深いのが日本という国だと思っている。この国で、成功することができれば、アジア、そして欧州へと市場を拡大していく自信につながる。欧州は日本のものづくりの姿勢を尊敬しており、日本で通用すれば、世界に通用する試金石になると考えている」と、日本市場が、こうしたハイテクと職人技を組み合わせた製品に対して理解を示してくれやすい土地柄であることを強調する。
3Dスキャナと3Dプリンタの活用で1時間で製作
QUANT-Uは5ステップで、自分の足の形状と用途にマッチしたミッドソールを作ることができるサービス。一般的に靴底のソールを「アウトソール」、中直を「インソール」と言うが、その間に存在する中物は「ミッドソール」と呼ばれ、履いている人の足を正しく支え、体重を分散させるクッションの役割を担っており、歩行時の機能と履き心地の70%を占める心臓部ともされている。よく混同されるのが、それはインソールの役割ではないか、という点だが、「ECCOは根本的に中直の考え方が異なる。靴の中で体温が上がると、足が汗をかくが、それをコントロールするための下着の役割が中直。だいたいの人は下着を着たうえにさまざまな機能を持つ洋服を着るのと同じで、ミッドソールにさまざまな役割を持たせている」とする。
QUANT-Uでは、ミッドソールをダウの提供する液状シリコーンゴムを光硬化型の3Dプリンタを用いて、3D測量された足の形状に最適化したものを作ることを可能としたものとなる。実際の製作時間は1時間ほどだという
5ステップの流れだが、「アッパーの色を選ぶ(13種類)」、「3Dスキャンで足の形を測量」、「センサを搭載した靴を履き、トレッドミルで45秒ほど実際の歩行の状態(歩き方)を計測」、「AIが自動でヒアリングに基づいた目的に応じた最適形状にミッドソールをモデリング」、「2台の3Dプリンタで左右別々に出力し、1時間ほどで完成」というものなる。
3Dモデリング処理はCATIAが担当
ここで重要となるのが、3Dモデリングの扱いである。3Dスキャニングされた足型データは、人手を介することなく、自動でクラウドベースのダッソーシステムズのハイエンド3次元CADソフトシリーズ「CATIA」に送り込まれ、そこで造形ツールパスデータ(Gコード)へと変換、そのまま3Dプリンタへと送信され、自動的にプリンタが製作を開始する。ここまで一切、人手は介さずにオートメーション化されているのがQUANT-Uの特徴の1つとなっている。
また、クラウド上のデータは、データだけであれば誰のものかがわからないようになっており、個人と紐付けるには、専用のパスカードを用いる必要があるので、セキュリティとプライバシーの双方にも配慮されたものとなっている。
2月~4月は期間限定展開。商用展開は8月から
実際に、QUANT-Uを使った自分にフィットした靴が欲しいと思った場合、直近では2月20日~3月26日の期間限定として伊勢丹新宿店メンズ館地下1階の紳士靴コーナーに「エコー QUANT-Uポップアップストア」が開設されるほか、3月28日~4月24日の予定で、松坂屋名古屋店の1階紳士靴コーナーにも、同様のポップアップストアが開設される予定だという。
常設となるのは伊勢丹新宿本店のリニューアルオープン予定日である8月26日以降で、こちらは紳士靴コーナーではなく、2階の婦人靴コーナーでの設置となる見通しだという。
気になる価格だが、カスタマイズされたミッドソールを収める専用シューズ「SOFT 8 QUANT-U EDITION」と3D足型計測データ、そしてシリコーンで作られた世界に1つだけのミッドソールの3点。値段は7万6000円(税別)で、内訳としては、SOFT 8 QUANT-U EDITIONが2万6000円(同)、ミッドソールが5万円(同)という形になるという。
1時間に1人分しか製造できないため、一度に多くの人が来店されても対応できないとのこと(伊勢丹の営業時間内で1日あたり9名)で、専用の予約サイトを立ち上げ、そこで来店予定日時のほか、サイズやアッパーの色などの選択も含め、予約を行ってくれた人に対してサービスの提供を行う形式としたとしている。
将来的には用途に応じた使い分けも可能に
なお、カルッチ氏によると、QUANT-Uサービスは、始まったばかりで、まだまだ進化の余地が残されているという。例えば、ミッドソールの形状1つとっても、立ち仕事が多かったり、歩くことが多かったりすると、それに併せて変更させたほうが良いとのことで、「ユーザーがその日の行動を踏まえて、どのミッドソールがよいか、といった選択肢が提供できるようにしていきたい」としているほか、計測データをスマートフォンにリアルタイムで送信して、歩行の状態を把握できるようにしたり、それを医療関係者と共有することで、健康管理に活用したり、医師やリハビリ従事者がその知見のもと、ミッドソールのパラメータを調整して、活用したり、果てはエナジーハーベストと小型振動モーターを組み合わせ内蔵することで、座り続けていたり、居眠りしたりといった履いている人の状態を検知し、運動を促すといったことの実現も考えているという。
カルッチ氏は、「究極の履き心地を提供したい」とその目標を語る。ECCOはこれまでも靴専門メーカーとして快適かつ高品質なものの提供を目指して靴に関する技術を構築してきたが、今後はその流れの中にデジタル化が追加されることとなる。「快適性を追求していけば、必ず個々人に最適な形状を実現する必要がでてくる。インソールを変えて対応できなくもないが、やはり快適性の面ではミッドソールのカスタマイズが必要。1人1人、足の形状が異なるので、そこにあったフィット感をどう提供していくかを常に追い求めていきたい」ともしており、今後とも3D CADや3Dプリンタ、3Dスキャナ、AI、クラウドなど、さまざまなデジタル技術を活用して、人にマッチした最高の履き物の実現を目指していくとしていた。