国立遺伝学研究所は、細胞壁の形成を促進する新たなタンパク質2種を発見したと発表した。同成果は、同研究所の小田祥久 准教授、東京大学大学院 理学系研究科、理化学研究所 環境資源科学研究センターの共同研究によるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
植物の細胞壁は陸上にもっとも豊富に存在する生物資源であるとされ、紙パルプや綿といった多くの工業製品にも応用されている。また、近年は化石燃料に代わるバイオ燃料や次世代素材のセルロースナノファイバーの供給源としても着目されている。細胞壁はセルロースなどの多糖類が蓄積されたものであるが、細胞壁形成のための蓄積量や位置は、植物細胞の中で制御されていると考えられており、その仕組みは解明されていない。
細胞壁の形成を制御する遺伝子を探すために、研究グループでは今回、道管の細胞に着目。道管を構成する細胞は、細胞内を空洞にすることで水を通す役割を果たしているが、その細胞壁は厚く丈夫であり、「壁孔」と呼ばれる微小な水の通り道をつくっている。壁孔周辺ではとりわけ細胞壁は厚くなり、特徴的なアーチ型になることが知られている。
独自の細胞培養法を用いて、道管の壁孔周辺で活発に働くタンパク質を調査したところ、新たに2種のタンパク質が発見され、「WAL」と「BDR1」と名付けたという。
WALは、アクチン繊維と呼ばれる繊維状の構造に結合することで、壁孔の縁に沿ったリング状のアクチン構造を作り出すことが確認された。アクチン繊維を破壊した植物や、WALタンパク質を失ったwal変異体では機能が抑制され、アーチ状の細胞壁の形成は不完全なものにとどまったとのことだ。
一方、BDR1は細胞膜上に存在する低分子量GTPアーゼの一種である、ROPタンパク質とWALの双方に相互作用することで、アクチン繊維のリング構造が形成される位置を制御していた。BDR1の働きを制御することで、壁孔のWALタンパク質が消失することが確認されたという。
これらの結果は、細胞膜上のROPタンパク質が、WALとBDR1を介してアクチン構造を壁孔に集めることで、壁孔周辺での細胞壁の形成促進していることを示しているという。
植物の細胞壁を利用した物質・エネルギー生産は温暖化の原因である大気中の二酸化炭素の削減に貢献するとされる。中でも樹木を用いることで、食料生産と競合することがなくなるというメリットも踏まえた上で、研究グループでは、今回発見されたタンパク質の働きを利用して細胞壁の形成を促進することで、細胞壁の生産の多い樹木の開発などにつながると期待を寄せている。