地球はいま、私たちの生活に伴う二酸化炭素の排出増で温暖化している。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書によれば、1880年から2012年までの約130年間で、平均気温は0.85度も上昇している。ただし、地球上のどこでも一様に気温が上がるわけではなく、寒冷化で注目されている地域もある。たとえば、冬の中央ユーラシアだ。
中央ユーラシアのこの寒冷化と関連して注目されている現象が、北極海の海氷の減少だ。北極海のうちヨーロッパの北側にあるバレンツ海、その東隣のカラ海のあたりで海氷が減ると、ユーラシア大陸の中緯度地域で寒くなる傾向が、これまでの観測でみられていた。だが、海氷の減少がほんとうにユーラシア寒冷化の原因になっているのかどうかは、研究者のあいだでも見解が分かれていた。コンピューター・シミュレーションで気候を再現してみても、そうした関係が現れない場合もあるからだ。つまり、ユーラシア大陸の寒冷化は、海氷とは関係がない「たまたま」の現象というわけだ。地球温暖化が進むなかでユーラシア大陸の広い範囲が冬に強く冷えるこの「珍事」の原因が、北極海の海氷の減少にあるのか、放っておいても起きる自然な変動の範囲なのかが、よくわかっていなかった。
その点を、新たな手法を開発して検証したのが、東京大学先端科学技術研究センターの森正人(もり まさと)助教らの研究グループだ。森さんらは、観測データと、これまでに公表されているたくさんの気候シミュレーションの結果とを総合的に評価。その結果、冬季に北極海の海氷が少ないとき、それが原因となって北極域は暖かく、中央ユーラシアは冷えるというパターンになることがはっきりした。
さらに、ここで検討した気候シミュレーションの手法は、例外なく、北極海の海氷の増減が中央ユーラシアの寒冷化に与える影響を過小評価していたこともわかった。海氷は、地球の気候変動に大きな意味をもつ。海氷が解けて海面が顔をだすと、太陽光があまり反射されなくなって、海は温まりやすくなる。その結果、海氷がますます解ける。太陽光はますます反射されにくくなり……。海氷の増減は、とくに極域の気候をこうして一方的に変えていく可能性がある。その大切な海氷の取り扱い方が、地球温暖化を予測する現在のシミュレーションでは不十分なことを、今回の研究は指摘したことになる。
森さんによると、中央ユーラシアでみられるこの冬季の気温低下は、ときに東に延びて日本を巻き込むこともある。昨年末から年初にかけての日本の低温傾向も、これに関係しているかもしれないという。
この研究グループの木本昌秀(きもと まさひで)東京大学大気海洋研究所教授は、昨年末のシンポジウム「気候研究の現状と展望」で、「気候の予測はいま、社会の意思決定に役立つレベルに来た」と指摘した。現在の気象学・気候学は、二酸化炭素が大気中に増えれば地球全体で気温がどれくらい上がるかをおおざっぱに予測していた時代から、気温は地球のどこで何度くらい上がり、激しい雨の強さは何割増しになるのか、極端に暑い日は何%くらい増えるのかといった具体的な未来姿を描ける時代に移りつつある。森さんらの研究は、この流れに大きく貢献する成果ともいえそうだ。
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