岩手大学発ベンチャーのエイシングは1月23日、IoTにおけるエッジの機器に人工知能(AI)を手軽に搭載させることができる独自AIアルゴリズム「ディープ・バイナリ・ツリー(DBT)」を搭載した「AiiR(エアー)チップ」を開発したことを発表した。
DBTは、エッジAIに特化したアルゴリズムで、入力数100程度と限定しているため、ディープラーニングのように画像認識などの処理は不得意だが、モータやセンサ制御などでの活用に向くという特徴がある。また、学習速度が速く、かつ学習にかかるチューニングなどを行わなくても高い精度を実現できるほか、軽量であるため、エッジで要求される電力などの要件を満たしつつ、その場で学習と推論(予測)の両立を図ることができるというものとなっている。
今回開発されたAiiRチップは、同社が提供するAiiRソリューションの一角を為すもので、第1弾としてはHiSilliconのSoC「Kirin 960」を搭載した96Boards準拠の開発ボード「HiKey 960」(LeMaker製)にDBTアルゴリズムを搭載したものが用意された。また、第2弾としては、XilinxのZynq 7000シリーズ搭載開発ボード「Zybo Z7」(Digilent製)にDBTのアルゴリズムを搭載したモデルや、同じくZynq7000シリーズを搭載した自社設計モジュール「AiiR1」などを2019年内に提供する予定だとする。
DBT自体はRaspberryPi ZEROでも動作可能な軽量なものだが、こうしたある程度パフォーマンスを持つチップで構成されるモジュールでの提供する方針とした背景として、同社代表取締役CEOの出澤純一氏は、「IPを保護するために、Arm Cortex-Aシリーズにて採用されているTrustZoneにDBTを格納するといったことを行う必要があった」と説明。ハードウェアの販売ではなく、あくまでAIアルゴリズムを提供していくビジネスとしての技術流出を防ぐ意味合いで、こうした機能を有するチップを選択したとする。
そのため、TrustZoneに類似するセキュア空間を確保できる技術があるチップであれば、回路規模次第ではあるが、DBTを搭載できるとの見方を示しており、2020年にはZynq7000ベースのRISC-V対応なども進めていく予定としているほか、「今までエッジデバイス向けと言って来たが、実はクラウドとエッジを連動させることで、社会集合知を構築することができる技術も確立済み」(出澤氏)とのことで、クラウドと連携して、エッジでの学習済みデータを定期的にクラウドに吸い上げ、クラウド側でさらなる学習(統合学習)を実施、その新たな知見を、再びエッジに送り、制御の向上や機器の品質の均一化の進展などに役立てるといったことも将来的には提供していく計画としている。
また、今回のチップ(モジュール)の提供だが、当面は一般販売は見送る予定だとしている。理由としては、現在、同社とPoCなどの開発を進めているパートナーが数十社ほどおり、そうしたパートナーにまずは貸し出して、開発の速度を向上してもらうことを優先するためだとする。また、そうしたパートナーには、必要であれば、クラウドベースのSDKの提供も行っていくとしており、2018年11月に発表したオムロンとのライセンス契約のように、実際のパートナーの製品に搭載される形でのビジネスの拡大を優先する。
なお、同社は2019年を事業拡大、特に海外展開の年としているそうで、日本貿易振興機構(ジェトロ)の支援のもと、1月末にはドイツにてBM|Wなどと商談を行う予定のほか、2月にはシリコンバレーを訪問し、技術の売り込みを行っていくとしている。