市場調査企業の米Gartnerは、2018年の半導体市場が前年比13.4%増の4767億ドル(2019年年頭の暫定値)となったことを発表した。世界半導体市場統計(WSTS)は、2018年秋の段階で、同年の市場成長率を15.9%増と予測していたが、今回のGartnerの発表数値は、それよりも2.5ポイントほど低い値となっている。
また、市場のけん引役となったのは、2017年から引き続いて半導体メモリで、同カテゴリの市場規模は、市場全体の34.8%となり、2017年の31%から約4ポイントの増加となった。
Gartnerのアナリストで、バイスプレジデントのAndrew Norwood氏は、「2018年はDRAM市場が好調だったため、2017年にトップに躍り出たSamsung Electronicsが、2位のIntelとの差を広げてトップを独走した。しかし、同社の2018年の成長率は同26.7%増と見込まれるが、これは2017年の成長率(同53%増)の半分にとどまっており、この背景には、メモリ市場が2018年後半から低迷し始めたことに起因している」と述べている。半導体市場全体におけるSamsungのシェアは15.9%となり、2017年の14.6%から1.3ポイントの増加となった。
また、半導体企業トップ25社の2018年における売上高の合計は、前年比16.3%増となり、市場全体に占める割合は79.3%となったが、26位以下の半導体企業の売上高合計の成長率は3.6%に留まったとのことで、これは、25位以内に事業が好調なメモリベンダーが集中しているためだとGartnerは分析している。
トップ10からついに消えた日本企業
2018年のGartnerによるトップ10は以下のとおり。
- Samsung Electronics
- Intel
- SK Hynix
- Micron Technology
- Broadcom
- Qualcomm
- Texas Instruments(TI)
- Western Digital(WD)
- STMicroelectronics
- NXP Semiconductors
上位4社に順位の変動はないが、DRAM事業の好調に支えられたSamsungの成長率は同26.7%増、SK Hynixも同38.2%増、Micronも同33.8%と業界全体を大きく超える高い値を示している。
5位と6位は、スマートフォン向けビジネスの不振やAppleとの裁判沙汰などを抱え、マイナス成長となったQualcommがBroadcomと入れ替わった。また、7位のTIは前年と同じポジションを維持したが、8位には前年9位のWestern Digitalが、9位には同11位のSTが入り、10位は前年と同じNXPとなっている。ここで注目すべきなのは、2017年に8位にランクインしていた東芝がトップ10のランク外に消えたことである。
その理由についてGartnerに確認したところ、同社では2018年の統計から、東芝(実際には連結子会社である東芝デバイス&ストレージ。ただしHDDなどの非半導体事業分を除く)と、東芝の連結子会社ではなくなった東芝メモリを別個に集計することとしたため、2社それぞれで順位を出すこととなったためだという。
Gartnerによると、東芝の2018年順位は22位(2017年は8位。東芝グループ全体の合算値)で、売上高は56億100万ドル、市場シェアは1.2%。一方の東芝メモリの順位は13位(2017年は東芝の売り上げとして計上)で、売上高は79億3600万ドル、市場シェアは1.7%としている。
なお、東芝メモリと東芝の2018年の売上高を合算すると、135億3700万ドルとなるため、8位のWestern Digitalよりを越す位置にランキングされることとなる。
メモリバブルの終焉で大波乱が起きる可能性
「2019年は、メモリ市場の状況が悪化すると予測されるため、半導体企業のランキングは、大きく変わる可能性がある。半導体企業は、景気の後退局面であっても、成長を維持できるように、準備しておく必要がある」とNorwood氏は述べており、具体的には、「例えば、メモリベンダは、継続的なプロセスの微細化の実行や次世代メモリ技術、そして新しい製造技術に関する研究開発に資金を投ずることで、将来の過剰供給と激しいマージンプレッシャー(利益率圧迫)に備える必要がある。最良のコスト構造を確立して、中国の新興メモリ企業の参入に立ち向かう必要がある」とするほか、「メモリ以外の企業は、高いメモリ価格に耐え続けてきた主要顧客とのデザインイン活動を増やす必要がある。スマートフォンやタブレットの市場が飽和状態にある中、アプリケーションプロセッサベンダはウェアラブル、IoTのエンドポイント(エッジ)、および自動車分野でチャンスを見出す必要がある」としている。
メモリ市場が悪化したとしても、同カテゴリは、2018年の半導体市場の中で最大規模を有し、かつ最大の成長率(前年比27.2%増)を達成していることには変わりがない。中でもNANDは年間を通して供給過剰気味が続き、平均販売価格を下げ続けていったが、そのおかげでHDDからSSDへと移行する件数が増加したほか、スマートフォンなどのメモリコンテンツの増加などもあり、市場としては同6.5%増と成長を達成した。
メモリに次ぐ規模を有する特定用途向け標準製品(ASSP)が、スマートフォン市場の低迷とタブレット市場の低迷により、成長率が同5.1%増にとどまった点を踏まえると、NANDの成長率が決して低いとは言えないことが窺える。また、ASSPの大手ベンダであるQualcommや台MediaTekなどが、自動車やIoTなど、より成長の見込みが強い隣接市場に積極的にビジネスを拡大することで、事業の拡大を狙っている。
政治に翻弄された半導体企業のM&A
2018年のM&A(合併買収)活動は、実際に実現した取引よりも実現しなかった取引のほうが注目を浴びる結果となった。
当時はシンガポール籍だったBroadcom(現在、本社は米国に移動)によるQualcommに対する買収の試みは、米国政府が介入したことにより失敗したほか、そのQualcommのNXP買収に向けた動きも米中の貿易戦争に巻き込まれた形で、中国政府の承認が得られず、実現しなかった。また、2018年6月には東芝がNAND事業を切り離し、日米韓の企業連合に売却したが、ここでも中国政府の承認に時間を要するなど、実際のビジネスとはかけ離れた政治の事情に翻弄された案件が多く目立った。実際に、買収を成功させた例では、2018年5月にMicrochip TechnologyがMicrosemiを買収したあたりが、比較的大きな案件だったと居えるだろう。
「2019年の半導体市場は過去2年間とは大きく異なるものになるだろう。メモリはすでに景気後退局面に入っている。米国と中国の間の貿易戦争は先が読みにくく、そして世界経済についての不確実性も高まっている」とNorwood氏は述べている。今年は、Samsungのメモリ事業であっても苦戦するのでは、という話も出てきており、業界トップの座に再びIntelが返り咲く可能性も考えられる。