1919年、高千穂製作所として創立されたオリンパス。2019年は同社が創立されて100周年となる記念の年となる。そんな同社を創立当時から支えてきたのが、創立から半年後から製造を開始された顕微鏡の事業。顕微鏡から生み出された技術は、100年経った現在、生物顕微鏡なども含めたライフサイエンス分野、そして非破壊検査機器や工業用内視鏡などの産業分野へと発展してきた。1月15日、そんな同社が、それらの製品を取り扱っている科学事業におけるコア技術の説明などを行った。

対象はプロフェッショナル

オリンパスは創業100周年を機に新たな経営理念、経営方針を掲げている。同社の科学事業もそれに併せる形で以下のようなミッションを掲げている。

  • オリンパスの科学事業が掲げているミッション

    オリンパスの科学事業が掲げているミッション

「私たちは、社会を支えるプロフェッショナルのニーズの一歩先を読み取り、革新的な製品と期待を超えるサービスで最適なソリューションを提供し、世界の人々の安全・安心・健康に貢献します」

これは、オリンパスは社会を支えるプロフェッショナルである、という意識を表したものだという。近年、持続可能な開発目標(SDGs)という言葉が各所で取り上げられるようになってきているが、同社の科学事業が関与するものとして、「すべての人に健康と福祉を」、「住み続けられるまちづくりを」、「産業と技術革新の基盤をつくろう」の3つを掲げており、そこに向けて、事業の価値を生み出すことを目指しているという。

  • オリンパスの科学事業における価値構造モデル

    オリンパスの科学事業における価値構造モデル

そのターゲットとする市場は、ライフサイエンス研究、再生医療支援/創薬支援、クリニカル(病理検査)、製造、インフラメンテナンス、環境/天然資源といったプロフェッショナルたちが活躍する分野であり、そうした分野に、これまでのような高性能なハードウェアを提供するだけでなく、そうした各分野における課題解決に向けたシステムやソリューションそのものの提供を行っていく方針が示されている。

コア技術を活用して課題解決ソリューションを構築

そうしたソリューションを構築する上で、プロフェッショナルたちのワークフローを助ける技術となるのが、同社が「コア技術」と呼ぶ長年培ってきた技術群となる。

同社の科学事業が掲げているコア技術は以下の5つ。

  1. アクセス技術群
  2. イメージング・センシング技術群
  3. 認識/解析技術群
  4. 治療/処置技術群
  5. レポート/エビデンス技術群
  • オリンパスのコア技術

    オリンパスが掲げる5つのコア技術

すでにシステムとして顧客や社会の課題を解決する取り組みは世界各地で進められており、例えばボーイングとの間では、飛行機のウイングスパー(翼桁)をオリンパスのセンサを活用して自動的に検査する手法が構築されている。

How Boeing Tests the Wing Spars of the 777X

また、こうした作業などで得られる大量のデータを分析して将来に活用していくことを目指し、Olympus Scientific CloudというAzureベースのクラウドサービスも用意するといった取り組みも進められている。

ちなみに5つのコア技術のうち、後者の3つは、これからの顧客開拓に向けた技術にもなってくるという。例えば病理を診断するための人工知能(AI)や、検査したい場所を正確に捉えるロボット技術など、そうした新技術につながっていくためだ。ただし、こうした技術は1社だけで開発を行っていくことは難しいとしており、パートナーシップを活用して、事業価値の向上を図っていくとしている。また、同社には黄綬褒章を受章している匠の技術を持つ技能者が5名在籍しているが、そうした匠の技のデジタル化を促進する「デジタルによるものづくりと人づくり」も推進しているという。同社はそれについて、「技術と匠の技の融合、それがOLYMPUS」と表現する。

AIの活用で、見えないものも見えるように

では、実際の最新のコア技術を活用すると、どのようなことができるのか。例えば創業の製品である顕微鏡。光学の技術であるレンズ加工や多層膜コーティング、レンズの組み立て技術などがコアとなるが、それらを駆使することで、可視光だけではなく、紫外線や赤外線にも対応できるようになってきたほか、最近では光に加えて、X線や超音波など、いわゆる「波」を活用してセンシングする技術へと昇華させつつあるとのことで、その発展系となる共焦点レーザー顕微鏡では、厚みのある細胞モデルを上下に測定していくことで3次元的に解析することが可能となっており、表面的な細胞の様子だけでなく、内部でどうなっているのか、といったことを時間軸も含めて観察するといったことが可能となってきた。

  • オリンパスのイメージング技術

    可視領域の波長を中心に紫外線、赤外線、X線そして超音波など、さまざまな波を使ってセンシングする技術を強化してきた

また、こうして得られた3次元細胞データの解析技術を搭載したソフトウェア「NoviSight」も2018年秋より米国にて先行して提供を開始。すでにUniversity of Southern Californiaと、大腸がん患者由来の細胞モデルを3次元解析することに成功するなどの成果も挙げつつあるとする

  • FLUOVIEW FV3000シリーズ

    共焦点レーザー顕微鏡「FLUOVIEW FV3000シリーズ」

  • NoviSight

    「NoviSight」を用いたデモ。赤い点が薬剤によって死んだ細胞。青や紫がまだ生きている細胞。表面だけでなく、立体的に深さ方向で細胞がどれくらい死んでいるのかといったことを一目で理解することができる

一方の産業分野でも技術進化が続いており、例えばハンドヘルド型の蛍光X線分析計「VANTA」は、持ち運び可能ながら、高感度SDD/SDD/Si-PINダイオードディテクターの3種類の検出器をラインナップ。用途に応じて12番元素のMg(マグネシウム)から、83番元素のBi(ビスマス)まで(ランタノイドのPm(プロメチウム)は除く)幅広くその場で測定することを可能としている。

  • ハンドヘルド蛍光X線分析計「VANTA」

    ハンドヘルド蛍光X線分析計「VANTA」による測定の様子。対象物に先端をあててトリガーを引くだけ

  • VANTAによる測定結果

    VANTAによる測定結果。この場合SUS316(ステンレス鋼材)であることが判明。その組成もしっかりと出ていることがわかる

また、3D測定レーザー顕微鏡「LEXT OLS5000」では、スタートボタンを押すだけで高精度なデータを高速で取得することを可能としたり、リアルタイムでサンプルのマップを作成していくことで、今どこにいて、どこを測定するか、といったことを一目でわかるようにするなど、使い勝手の向上が図られている。

  • 3D測定レーザー顕微鏡「LEXT OLS5000」

    3D測定レーザー顕微鏡「LEXT OLS5000」による計測の様子。深度までカラーイメージで描画することができる

  • リアルタイム・マッピング

    画面右上がリアルタイムでサンプルのマップを作成している様子。ステージが移動して、スキャンされた場所が自動的にリアルタイムで描画されていき、全体像を構築できる

なお、同社では今後は、AIとクラウドを活用していくことで、科学分野に新しい光を提供していきたいとしており、見えない光までも見る技術を創造していくことで、膨大な情報の中に埋もれた価値のあるデータの可視化を進め、プロフェッショナルたちのワークフローにそれをフィードバックし、ワークフローの最適化に貢献していければ、としている。

  • AIやクラウドの活用

    これまでの技術にAIやクラウドを加えることで、さらなる精度の向上などを実現することができるようになる