宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月13日と18日、イプシロンロケット4号機で打ち上げる「革新的衛星技術実証1号機」に関する説明会を開催した。200kg級の「小型実証衛星1号機」(RAPIS-1)のほか、超小型衛星3機とキューブサット3機の計7機の衛星を搭載し、内之浦宇宙観測所より2019年1月17日に打ち上げられる予定。
宇宙産業は実績が重視される業界である。宇宙では、もし壊れてしまっても、地上と違い、修理することができない。宇宙環境は、真空、無重力、温度、放射線など、地上とは大きく異なるため、地上試験で問題なくても、宇宙でうまく動かないことは有り得る。どうしても、初物より、動作した実績があるものが選ばれやすい。
しかし、初物だから使われない、使われないから実績ができない、というループのままでは、いつまでたっても使われる機会が訪れない。新しい革新的な製品に対し、国が実証の機会を提供しようというのが「革新的衛星技術実証プログラム」の狙いだ。今回の革新的衛星技術実証1号機は、その1回目の機会となる。
同プログラムは、2年に1回、合計4回の打ち上げ実証を計画。「宇宙は憧れではなく、皆さんに使ってもらう時代。技術を有効活用することで、日本の未来を作っていきたい」と、JAXA革新的衛星技術実証グループ長の香河英史氏は説明し、「3号機と4号機のテーマについてはまだ通年公募しているので、ぜひ応募して欲しい」と促した。
これまでも、JAXAはH-IIAロケットへの相乗りなどで超小型衛星やキューブサットの実証機会を提供していたが、同プログラムの大きな特徴と言えるのは、コンポーネントや部品レベルでの実証も可能となったこと。
部品・コンポーネントを実証するプラットフォームとして、JAXA側で用意したのがRAPIS-1である。今回のRAPIS-1には、ミッション機器として以下の7テーマが搭載されている。軌道上で動作させ、データを取得する計画だ。
- 革新的FPGAの耐宇宙環境性能軌道上評価(NEC)
- X帯2-3Gbpsダウンリンク通信の軌道上実証(慶應義塾大学)
- グリーンプロペラント推進系の軌道上実証実験(宇宙システム開発利用推進機構)
- 粒子エネルギースペクトロメータの軌道上実証(宇宙システム開発利用推進機構)
- 深層学習を応用した革新的地球センサ・スタートラッカーの開発(東京工業大学)
- 軽量太陽電池パドル機構(JAXA)
- 超小型・省電力GNSS受信機の軌道上実証(中部大学)
なお上記の中では、1のテーマが部品だ。コンポーネントであれば、バスから電力と通信を用意すれば動作できるが、部品を実証するには、何らかの機器に仕立てる必要がある。今回は実証のために、このFPGAを組み込んだカメラをJAXA側で開発。軌道上で撮影することで、動作を確認する方針だ。
RAPIS-1はアクセルスペースが開発した。同社には、3機の超小型衛星を開発した実績はあったものの、JAXA衛星でベンチャー企業に開発を委託したのは、これが初めてのケース。同社に決まったのは入札の結果とのことだが、従来の指名競争入札をやめて門戸を開放したのは、ベンチャーの育成も考慮したからだという。
アクセルスペース代表取締役CEOの中村友哉氏は、RAPIS-1の開発にあたり、「何があっても死なない衛星を目指した」と述べる。同社が重視するのは、コストを抑えつつ信頼性を確保することだ。単純に冗長化するだけでは、コストも上がってしまう。相反する要求を両立するには工夫が必要だ。
同社は、動作実績がある民生品などを活用し、必要な信頼性は確保した上で、放射線などで動作が不安定になったときは、「全体をリセットして復活させる方針」だという。従来の衛星は、軌道上での再起動はなるべく避けるのが普通だが、このあたりの考え方はいかにも超小型衛星的なノウハウで面白い。
ただ、RAPIS-1は同社にとって、過去最大の衛星となる。これまで開発した超小型衛星では、バス部とミッション部を合わせて最適化してきたが、RAPIS-1では、初めて明確にバス部とミッション部のインタフェースを分離させた。
特にこの衛星は、ミッションの特性上、未実証の機器を多く搭載しており、この部分で不具合が起きるリスクは許容するしかない。バス部と切り分けたのは、ミッション部の機器に不具合が起きても、衛星の生存に欠かせないバス部に影響が及ばないようにとの配慮だ。ミッション部だけ入れ替えれば良いので、2号機にも応用しやすい。
今回、アクセルスペースは衛星本体の開発だけでなく、運用もセットで委託されている。これについても、これまでの経験を応用し、完全自動運用が可能なシステムになっているとのこと。ユーザーがブラウザで実験のリクエストを出してから、終了して結果をダウンロードするまでの運用がすべて自動になっており、非常に使いやすいだろう。
今回の7テーマの中で、筆者が特に注目しているのは3のグリーンプロペラントである。現在、衛星の推進系で燃料として使われることが多いのはヒドラジン。この物質は燃料としての性能が良く、信頼性も高いのだが、有毒という最大の欠点がある。そのため地上で充填作業をするにも、物々しい設備が必要だ。
しかし、低毒性の燃料(グリーンプロペラント)があれば、地上作業が簡単になる。それに今回実証するHAN系の燃料は、ヒドラジンより高性能で、なおかつ凝固点が低いという特性もある。従来の燃料は2℃程度で凍ってしまうが、新しい燃料は-68℃まで液体でいられるので、ヒーターの電力を大幅に節約できる。
またRAPIS-1と同時に搭載されるのは、超小型衛星が「MicroDragon」(慶應義塾大学)、「RISESAT」(東北大学)、「ALE-1」(ALE)、キューブサットが「OrigamiSat-1」(東京工業大学)、「Aoba VELOX-IV」(九州工業大学)、「NEXUS」(日本大学)だ。
この中で、従来とは毛色がまったく違っていてユニークなのがALE-1。この衛星の目的は、人工流れ星によるエンターテインメント事業を実現することだ。衛星から直径1cm程度の粒(材質は企業秘密)を放出して、狙った場所と時間に流れ星を作る。ALE代表取締役CEOの岡島礼奈氏によれば、「2020年春に最初の流れ星を放出する予定」だという。
最初の放出まで時間がかかるのは、まず高度を下げる必要があるからだ。ALE-1が分離されるのは高度480kmあたりだが、安全面への配慮として、国際宇宙ステーション(高度400km)以下まで高度を落としてから、放出を行う計画。空気抵抗を増やして高度を下げるため、展開式の膜を装備しているそうだ。