仏Yole Développementが最近発行したGaN市場動向調査レポートにおいて、今後のGaN市場の拡大に関して、AppleがiPhoneのワイヤレス充電用にGaNデバイスを採用するか否かによって2つのシナリオが考えられるとしている。

GaNベースのパワーデバイスは従来のSi MOSFETに比べてさまざまな技術的優位性があることが知られており、参入企業の数も増えている。そのため、企業間競争が進んで価格が下がれば、GaNデバイスがSiベースのパワースイッチングトランジスタと競合する可能性がでてきた。

現在、GaNパワーデバイス市場は、総額328億ドルのSiパワーデバイス市場と比べると、まだまだ小さいが、その応用先は広がりを見せている。例えば、GaNの高周波スイッチング特性を引き出すLiDARへの採用はユニークなハイエンドの応用先だといえる。

とはいえ、Infineon TechnologiesやSTMicroelectronicsなどをはじめとした半導体企業企業の中には、すでにポートフォリオにGaN製品を入れているところがあるものの、大半はまだそのような段階には至っていない。もしも、GaN市場が従来の延長で徐々に拡大していくとすると図1に示すような「底堅いシナリオ」(下側の#2の曲線)に沿った穏やかな成長を示すだろうとYoleでは予測している。

  • GaNパワーデバイス市場シナリオ

    GaNパワーデバイス市場規模の2018年から2023年にかけての推移予測。急成長するシナリオと穏やかに成長する2つのシナリオが考えられる。前者のシナリオでは、スマートフォンのワイヤレス充電と有線の急速充電が急速に普及することが前提となっている (出所:Yole Développement)

Appleがワイヤレス給電技術として関心を示すGaN

GaN市場は有望と言われつつも、まだ市場を爆発的に拡大させるようなキラーアプリの登場には至っていない。

業界関係者の情報によると、Appleがスマートフォン(スマホ)のワイヤレス給電目的でGaNに関心を持っているのは確実のようだ。Appleや他の大手スマホベンダがGaNデバイスを採用することになれば、市場が大きく動き、GaN市場の急成長に期待がかかる。もしAppleがGaNを採用したならば、ほかの多くの企業が追従するのは間違いないからだ。実際、パワーGaN市場における最大のセグメントは、依然として電力供給アプリケーション、すなわちスマホの高速充電である。実際、最近、新興企業の豪Navitasと仏Exaganは45Wの急速充電用電源アダプターにGaNを採用したという。

一方、より高電圧の用途で活用されつつあるSiCがメインインバータのSi IGBTに取って代わりつつあるEV市場にGaNが入り込むことも考えられる。すでに米Efficient Power Conversion(EPC)や米Transphormなどの企業が、将来を見越してGaNを車載として活用するための認証を得ているほか、独BMW i Venturesの加GaN Systemsへの投資は、自動車業界がEV/HEV技術向けにGaNを採用することに関心を持っていることの証でもあるとYoleでは説明している。

こうしたスマホの充電や車載へのGaNの採用が進んだ場合の強気の「猪突猛進シナリオ」(上側の#1の曲線)の場合、2017年から2023年までの間にGaN市場は年平均93%の成長率で急速に成長し、2023年の市場規模は4億2300万ドルに達するとYoleは予測している。

巨大企業と新興企業が共存するパワーGaN市場

商用パワーGaNデバイスの最初のリリースから8年が経過した現在、GaN業界の状況を整理すると、EPC、GaN Systems、Transphorm、Navitasなどの新興企業が続々誕生してきている。これらの新興企業のほとんどは、主にTSMCやEpisil、またはX-fabをファウンドリとして利用したファブレス・ファウンドリモデルを選択している。

市場が今以上に拡大すると、他のファウンドリもGaNの受託生産サービスを始める可能性もある。ファブレスまたはファブライトの新興企業はファウンドリのおかげで市場拡大に応じて迅速に事業を拡大することができるためだ。これら新興企業と同じ土俵で、Infineon、ON Semiconductor、STMicro、Texas Instruments、そしてパナソニックのような半導体産業界の巨人たちが競争しているのが現状と言えるだろう。

こうしたIDMたちも、2018年にGaNに向けていろいろな 動きを見せた。例えばInfineon は、CoolGaN 400V and 600V HEMT製品を2018年末までに量産開始すると発表したし、STMicroとCEA Letiは、ダイオードおよびトランジスタ用のGaN-on-Si技術をLetiの200mm R&Dラインで共同開発することで合意し、エンジニアリングサンプルを2019年に提供する計画であることを明らかにしている。また、STMicroは並行してGaN-on-Siヘテロエピタキシーを含むGaNラインを仏トゥールにある自社の前工程ファブに設置し、2020年までに稼働を始めることも明らかにしている。このように、IDM各社は垂直統合の強みを発揮してコスト競争力のある製品を発売する見込みである。

  • パワーGaN市場の動向例

    パワーGaN市場の動向例。ディスクリートからSiP、SoCチップメーカーなどさまざまなな企業(R&D、サンプル出荷中、市販中の企業を含む)が存在しているが、ここに記載されていない企業も複数存在する群雄割拠の状態となっている (出所:Yole Développement)