企業が競争優位確保と顧客サービス向上を目指す中、ビジネスのアジリティと業務の効率性を高めるための技術革新に終わりはありません。一方、ビジネスで扱うデータ量が増え続けており、今では人間や各種センサーが発するデータが、コンピュータ・システムが扱ってきた従来型の業務データに比べ10倍の速さで増加しています(*1)。
*1 The Exponential Growth of Data、inside BIGDATA, 2017年2月
こうした中で、デジタル化は社外への製品・サービスの提供と社内業務プロセスの両面で不可欠であり、インテリジェントなデータ・マネジメントへの需要は着実に高まっています。この分野で予想される2019年の4つのトレンドについて、Veeam Software の戦略担当バイス・プレジデントであるデイブ・ラッセルによる予測を紹介します。
1.マルチクラウド環境が拡大する
各種の市場調査で、マルチクラウド環境の利用拡大が予測されています。国内でクラウドサービスを利用する企業の比率は2016年の46.5%から2017年の56.3%へと急速に高まりました(*2)。また日本のパブリック・クラウド市場規模は、2022年には2017年の2.8倍となる1兆4,655億円になると予測されています(*3)。運用サービスを付加したマネージド・クラウド・サービスの増加も、マルチクラウド化の動きを支えています。
*2 平成29年通信利用動向調査報告書、総務省、2018年5月
*3 国内パブリッククラウドサービス市場 産業分野別予測、IDC Japan、2018年10月
2019年は、“オフ”プレミス、つまりオンプレミスからクラウドの方向へのワークロード移行がさらに増加すると見込まれます。この移行は数年かけて進むと予想されますが、ワークロードとデータの分散に、今から備えをしておくことが重要です。
もちろん、オンプレミスのデータやアプリケーションがなくなることはありません。オフプレミス化は、すなわち、オンプレミス、SaaS、IaaS、マネージドクラウド、パブリック・クラウドの混在利用がますます進展し、データの所在場所が分散することを意味します。データがマルチクラウド環境に分散配置されていることをユーザー企業に意識させないためのデータ・マネジメント、これがインテリジェント・データ・マネジメントであると私たちは考えています。
2.フラッシュ搭載ストレージの普及がビジネスでの最新データ活用につながる
フラッシュメモリの価格低下により、IT運用部門ではリカバリ業務用にもフラッシュ搭載ストレージの活用が進むでしょう。実際、2017年の国内販売実績では、ストレージ市場は全体では5.5%減と縮小したのに対し、オール・フラッシュ・アレイは88.9%増でした。ストレージ市場に占めるオール・フラッシュの出荷シェアは、前年比倍増の18.4%に達しています(*4)。フラッシュ・ストレージには大量のバックアップとレプリカデータが保存できます。フラッシュ容量の増加に伴い、バックアップされたマシンイメージのインスタント・マウントと、コピーデータの活用が広がるものと考えられます。
*4国内エンタープライズストレージシステム市場 2017年第4四半期の分析、IDC Japan、2018年3月
2019年には、こうしたバックアップとレプリカデータを、サンドボックス的に「ほぼ最新」の業務データとしてDevOps、DevSecOps、DevTest、パッチテスト、分析、レポート、コンプライアンス監査などに活用する動きが本格化するでしょう。フラッシュ・ストレージを、可用性の向上ばかりでなく、ビジネスそのものの成果につなげる、ここでもデータ・マネジメントに「インテリジェンス」が必要になるでしょう。
3.予測分析があまねく広がる
IoTデータに基づく予測分析(Predictive Analytics)、特に機械学習(Machine Learning)による意思決定支援やレコメンデーションが、業務基盤として広く普及するでしょう。2019年には、既存のITインフラに大きな変更を加えなくても、強固な認証システムの導入やシステムの最適化により、予測分析が現在より大きな効果を引き出せるようになるでしょう。なお個人情報データの活用という点でデータ流通の環境整備が急速に進みつつあり、個人情報を預かり本人に代わりデータを第三者に提供する「情報銀行」の認定が2019年から始まる見込みです。
豊富なデータによる精度の高い予測分析と診断は、業務の継続性確保と管理コスト削減に役立ちます。データ量の増加と、厳しくなる一方の事業部門からのSLO(Service Level Objective、サービスレベル目標)に対応するために、IT部門にとってもこの機能はきわめて効果的です。
予測分析が普及すれば、SLA(Service Level Agreement、サービス水準合意)とSLOがあがり、企業全体としてもSLE(service level expectations、期待サービスレベル)が大きく高まります。つまり、IT部門はデータ・マネジメントのインテリジェンスにより、全社の期待に応えることができるのです。
4.ジェネラリストの役割が重要になる
前述の3点はテクノロジーのトレンドでしたが、デジタル社会の未来は実はアナログな問題、すなわち人材にかかっています。オンプレミス・インフラの縮小と、パブリック・クラウドおよびSaaSの拡大が相まって、幅広い技術分野の経験を持ちビジネス感覚にも長けた技術者の役割が、2019年にはより重要になるでしょう。ちなみに、政府IT総合戦略室では、CIOには組織や部門を越えて企業グループ全体を俯瞰した、経営の変革を推進する主導的役割が求められるため、経験、 知識、人的資質、ツール、組織に通じた人材が望ましいと定義しています(*5)。
*5 政府CIOポータル
インテリジェント・データ・マネジメントにより、システムの標準化、オーケストレーション、自動化へと進んでいくITの潮流の中で、ITマネージャーは、システムとビジネス両面での広い視野の獲得を、専門性の掘り下げより優先することができるようになります。もちろん専門性が重要なのは今後も変わりませんが、ITがビジネスに欠かせなくなる中、IT人材もまたビジネスを幅広く理解し、様々なITソリューションによりビジネスに付加価値をもたらすことを求められるのが、今後の潮流と言えるでしょう。
著者:ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長 古舘正清
1984年4月:日本IBM テクノロジー事業部長(日本および韓国統括)
2005年3月:日本マイクロソフト(当時:マイクロソフト)業務執行役員第一インダストリー統括本部長
2011年2月:レッドハット 常務執行役員パートナー・アライアンス営業統括本部長
2015年5月: F5ネットワークスジャパン 代表取締役社長
2017年12月:ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長