地球温暖化は、私たちが食糧にする農作物の収量に直結する。とくにトウモロコシや大豆のような世界中で広く食べられている穀物に、地球温暖化ですでにどれだけの被害が出ているのかは、気になるところだ。農業環境変動研究センターの飯泉仁之直(いいずみ としちか)主任研究員らの研究グループがこのほどまとめた論文によると、トウモロコシ、小麦、大豆だけでも、被害額は世界で年間5兆円近くに達しているという。
いま進行中の地球温暖化で、世界のトウモロコシや小麦の収量は、温暖化がないと仮定した場合に比べて数%低下しているといった推定は、これまでにもあった。しかし、これまでの研究は、おもに「気温と収量」「降水量と収量」といった個々の気象要素と収量の実績の関係に注目した方法だった。植物の成長が気候の変化にどう左右されるかという視点は含まれていない。そこで、まったく別の方法でその推定の正しさを確かめることが求められていた。
飯泉さんらの方法では、植物の成長の仕組みを考えている。気温や降水量などの気象条件を「原因」とし、それに植物がどう影響を受けるかを考えて、収量という「結果」を算出する。つまり、地球温暖化と作物の収量を因果関係としてとらえる新しい手法だ。これに、肥料の使用や品種改良、温暖化にともなう種まき時期の変更なども考慮して計算した。
飯泉さんらが出発点にしたのは、地球温暖化が進みつつある現在の気候と、温暖化がなかったと仮定した場合の気候を比較できる、「d4PDF」という膨大なデータベースだ。これをもとに、現実の地球温暖化ですでに被害を被っているはずの穀物の収量を推定した。
1981~2010年の30年間の平均をとったところ、世界のトウモロコシは、地球温暖化がないと仮定した場合に比べて収量が4.1%減っていた。小麦(春小麦)は1.8%減、大豆は4.5%減。2005~2009年の生産者価格で金額に換算したところ、この3種類の合計で年間424億ドル(約4兆8000万円)もの損失になっていた。米については、はっきりした温暖化の影響は表れていなかった。
地域別にみると、トウモロコシ、小麦、大豆、米の収量はいずれも低緯度地域で減り、高緯度地域で増えていた。本来ならば気温が低くてこれらの穀物が育ちにくかったはずの高緯度地域でも、すでに地球温暖化で栽培しやすくなっていると考えられる。生育期間の気温がもともと高い低緯度地域では、さらに気温が上がってしまい収量が減ったらしい。
この研究結果をもとにすると、地球温暖化による国別の被害額も算出できる。低緯度地域に多い開発途上国に対する資金援助の際、その科学的な基礎データとしても利用できるという。
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