米国のロケット企業「ロケット・ラボ」は2018年11月11日、「エレクトロン」ロケット3号機の打ち上げに成功した。
エレクトロンは、小型衛星打ち上げ専用の"超小型ロケット(マイクロ・ローンチャー)"のひとつで、今回は同機にとって初めて、そして世界でも初めての商業打ち上げ成功となった。かねてより、小型衛星ビジネスからはこうした超小型ロケットが待ち望まれていたが、いよいよそれが実現したことで、世界は新たな時代を迎えようとしている。
そして、同社に追いつき追い越せとばかりに、超小型ロケット開発をめぐって、世界中でさまざまな企業がしのぎを削っている。
ロケット・ラボとエレクトロン
ロケット・ラボ(Rocket lab)は2006年、ニュージーランド出身のエンジニア、ペーター・ベック(Peter Beck)氏らによって設立された宇宙ベンチャーである。本社は米国ロサンゼルスにあり、米国企業に数えられるが、ロケットの製造拠点や発射場はニュージーランドに構えている。いくつもの企業やベンチャー・キャピタルから投資を受け、現在では評価額10億ドルを超える、いわゆるユニコーン企業として知られる。
同社はまず、高度100kmに届く観測ロケットや、新技術を使ったロケット・エンジンを開発。実績を重ねたのち、「エレクトロン(Electron)」ロケットの開発に着手した。
エレクトロンは、小型衛星を打ち上げることを目的とした"マイクロ・ローンチャー"(Micro Launcher:超小型ロケット)で、Micro(超小型)というとおり、全長17m、直径1.2mと、日本の小型ロケット「イプシロン」などよりもさらに小さなロケットである。
打ち上げ能力は、地球観測衛星がよく打ち上げられる高度500kmの太陽同期軌道に最大225kg、標準的なミッションでは約150kgという性能をもつ。ちなみに、イプシロンは同じ軌道に590kgの打ち上げ能力があるので、エレクトロンはその半分以下となり、その小ささが際立つ。
ロケットは2段式を基本とし、追加で「キュリー(Curie)」と呼ばれる第3段を搭載することもできる。キュリーはエンジンを何度も再点火することができ、複数の衛星をそれぞれ異なる軌道に、また正確に投入することができる。
エレクトロンの最大の特徴は、小型衛星を安価に、そして確実に打ち上げるために、最新技術をふんだんに使っているところにある。たとえばタンクには炭素繊維複合材料を全面的に用い、軽くて丈夫、そして効率のいいロケットを実現している。
また、第1段と第2段に使っている「ラザフォード」と名づけられたロケット・エンジンは、電動モーターでポンプを動かすという仕組みを採用し、低コスト化や効率向上が図られている。この仕組みのエンジンの実用化は世界初である。さらに、その製造には3Dプリンターが活用されており、複雑な部品の形成や量産の効率化に大きく貢献している。同社によると、わずか24時間で1基のエンジンが製造できるという。
打ち上げコスト、販売価格は現在明らかにされていないが、かつて価格については、1機あたりおよそ500万ドルから600万ドル(約5.6億円~6.8億円)ほどとされていた。たとえば超小型衛星であれば、軌道がほぼ同じ数機をまとめて打ち上げられるため、衛星会社が支払う金額は、これを衛星の質量や搭載機数などで割った数字となろう。
It's Business Time(さぁ、ビジネスの時間だ)
エレクトロンは2017年5月に1号機、愛称「It's a Test (これはテスト)」が打ち上げられたが、地上設備のトラブルにより飛行の安全が確保できなくなったことから、飛行を中断。軌道には到達できなかった。しかし、ロケット側は飛行を中断するまで完璧な飛行を見せており、ロケット・ラボは「地上設備のトラブルさえなければ成功していた」と語っていた。
続く今年1月には、2号機が打ち上げられ、軌道に到達。さらに初めて搭載されたキュリー上段も問題なく飛行し、搭載していた衛星を正確に軌道へと投入し、完璧な成功を収めた。
この2号機には「Still Testing (まだテスト中)」という愛称が与えられていたが、見事にテストをクリアした。そして、これをもって試験飛行の段階を終え、次の3号機からは実運用段階に移り、商業打ち上げが始まることになった。そのことから、3号機には「It's Business Time (さぁ、ビジネスの時間だ)」という愛称が与えられた。
エレクトロンの3号機は、日本時間11月11日12時50分(ニュージーランド夏時間同日16時50分)、ニュージーランドのマヒア半島にある同社の発射場から離昇した。
ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約54分後に、搭載していた6機の衛星すべてを分離し、軌道に投入。打ち上げは成功した。
搭載されていたのは、次の6機である。
- シセロ(CICERO)
- 米国企業ジオオプティクス(GeoOptics)の地球観測衛星。質量は約10kg。測位衛星のGPSやガリレオが出す信号の反射波を利用して、大気や地球表面の状態を観測する。24機以上の衛星を打ち上げる計画で、これまでに2機が打ち上げられている。
- リマー2(lemur-2) x 2機
- 米国企業スパイヤー・グローバル(Spire Global)の超小型衛星。質量は4kg。GPSの信号の反射波を利用して、温度や圧力、湿度などの気象観測と、AISによる船舶の追跡を行う。100機を超える衛星の打ち上げが予定されており、すでに70機を超える衛星が打ち上げられている。
- プロキシマ(Proxima) x 2機
- 米国企業フリート・スペース・テクノロジーズ(Fleet Space Technologies)の通信衛星。1.5Uサイズのキューブサットで、衛星を使ったインターネットの実証試験を行う。同社ではその成果をもとに、「センタウリ(Centauri)」と呼ばれる本格的なサービスの展開を目指している。
- アーヴァイン(Irvine)
- カリフォルニアの学生が開発した超小型衛星。カメラや電気推進エンジンを搭載している。
また、衛星ではないものの、ドイツのHPSが開発した「NABEO」がキュリー上段に取り付けられていた。NABEOは薄い膜を展開し、大気抵抗を増やして軌道を落とす「ドラッグ・セイル」と呼ばれる技術の実証機で、このあと実際に展開し、キュリーを早期に大気圏に再突入させるとともに、将来のスペース・デブリ除去に役立てるとしている。
2号機に続く2回目の打ち上げ成功、そして初の商業打ち上げ成功に際して、同社のベックCEOは「世界は新たな常識の誕生を目の当たりにしています。このエレクトロンにより、小型衛星の宇宙への迅速かつ信頼性の高い打ち上げが現実のものとなりました」と語る。
「私たちは2号機に続き、ふたたび軌道投入に成功し、さらに多くの衛星を投入したことで、小型衛星の打ち上げ市場をリードしました」(ベック氏)。
同社の快進撃はまだまだ続こうとしている。12月には次の4号機の打ち上げが予定されている。さらに、日本のキヤノン電子を含む、世界中の企業や大学などから打ち上げ受注を取っており、引く手あまたの状況が続いている。さらに経営面でも、3号機の打ち上げが成功した直後の11月15日には、シリーズEラウンドで、ニュージーランド企業から新たに1億4000万ドルの資金調達を獲得しことを発表している。
また、エレクトロンは大量生産を前提に設計されており、年間最大120機もの打ち上げが可能なライセンスも保持している。Spaceflight nowによると、同社は2019年中に2週間に1回の打ち上げを、そして2020年には1週間に1回の打ち上げを行うことを目指しているという。
さらに今年10月には、米国のヴァージニア州にあるワロップス島に、第2の打ち上げ基地を検することを発表。さらにロッキード・マーティンなどと共同で、スコットランド北部に打ち上げ基地を建設することも計画している。