リンクスは、11月19日に名古屋、11月20日に東京、そして11月22日に大阪にてプライベートカンファレンス「LINX Days 2018」を開催。同社の代表取締役社長を務める村上慶氏が「リンクスが描く未来の工場の姿」と題し、同社のマシンビジョン/エンベデッドビジョンに関する戦略についての説明を行なった。
リンクスがエンベデッドビジョン市場に参入する理由
スマートフォン(スマホ)の性能が向上した背景には、その核となるプロセッサ、つまりSoC(System on Chip)のムーアの法則に基づく高性能化と低消費電力化の進展がある。これにより、マシンビジョンはあらゆるものに搭載可能なエンベデッドビジョンへと進化。さまざまな機器でエンベデッドビジョンの活用が可能になることが期待される。村上氏は、それを「これからの5年間で社会の隅々までエンベデッドビジョンがいきわたるのではないかと考えている。あらゆるものに眼がエンベデッドされ、リンクスがそれを提供することで、より豊かな社会の実現を目指す」と説明。そのために、2018年4月にプリント基板設計・製造会社であるアイティエスエンジニアリング(ITSE)を子会社化、同6月に「リンクスアーツ」へと社名変更を行い、本格的にエンベデッドビジョン市場に参入することを紹介した。
「エンベデッドビジョンのキーとなるSoCの技術、そしてそれを駆動させるためのプリント基板、OSやミドルウェアなど、ボード開発にはいろいろとノウハウが必要とされる。また、SoCとしても、スマホの主流はQualcommのSnapdragonだが、それ以外にもIoT向けにはNXP Semiconductorsのi.MXや各種のマイコンなどもあり、どれが自分のニーズにマッチし、最適なコストパフォーマンスを提供してくれるのか、といったことは分かりづらい」(同)という課題を市場が抱えており、そうした課題に対し、同社がこれまで培ってきたカメラに関するノウハウを活用することで、コンサルティングからシステム開発、ファブレス製造まで手助けすることで、「カメラモジュールはリンクスアーツに任せよう、という分業体制を構築することで、カスタマの成長を支援したい」とする。
開発効率を向上させた次世代産業用カメラ
また、同社が長年扱ってきた産業用デジタルカメラメーカーBaslerのスタンダード製品「ace」が、次世代バージョンにアップデートされることも明らかにした。
「十数年にわたってマイナーアップデートを繰り返して、その時代に応じた最適化を図ってきたが、この先十数年間続くカメラプラットフォームを考えると、ここでまったく新しいカメラプラットフォームへと進化することを選択する必要があった」と、同氏はその決断の背景を説明する。
カメラのシステムは、CMOSイメージセンサの基板、画質補正用のFPGAの基板、インタフェースを搭載した基板が三位一体になって構成されており、新しいカメラを作ろうと思うと、3つのコンポーネントをまとめて開発する必要があった。これが次世代aceでは、それぞれを独立して作ることができるようになるという。
「なんのためにやるのかといえば、すべてを最適化させるため」だという。例えば、ソニーやオン・セミコンダクターが今まで以上にさまざまなCMOSイメージセンサを提供する時代が到来することが見えており、そうしたセンサを活用していくためには、開発期間の効率化が求められるようになる。そこで、各コンポーネントを独立させることで、FPGAやインタフェースはそのままに、イメージセンサ部分だけを開発すれば良くなり、これにより従来比で半分の期間で開発を行なうことが可能になるほか、インタフェース部分だけを大量に作ってストックしておくといったような生産と在庫の最適化を図ることができるようになるとする。
「カスタマにとってのメリットは、今後10年間も確実に工業カメラを提供していくことをリンクスがコミットした取り組みだということ。この先、10年間、工業用カメラを提供していくためには、これくらいのことをしないと勝ち抜いていけない」と村上氏は意気込みを語る。2019年には次世代aceを提供する体制が整い、新製品が次々にリリースされる見通しだという。
「そこまでカメラを用意する理由は、カスタマに無駄なコストをかけてもらいたくない。アプリケーションに最適な必要最低限なカメラを使ってもらいたいという思いで開発を進めてきた。また、今までのaceも製造終了にはならない。設計仕様の変更は内部の問題なので、カスタマに関係のない話なので、引き続き、長期供給を行なっていく」(同)とも述べている。
産業分野で活用されるさまざまな3次元カメラ
同社が扱っている産業用カメラの一種に3次元カラーラインスキャンカメラがある。同社もChromasensの製品を約1年間販売してきており、この間、コネクタピンの検査とワイヤボンディングの高さ検査という2つの市場での需要が高いことが見えてきたという。
また、同社の色の測定を可能とするマルチスペクトルラインスキャンカメラも、印刷業界などでの導入が進んだ一方で、アパレル関連などではコスト的に見合わないとのことで、若干性能を落とした廉価版の開発を進めていることを明らかにした。
さらに、同社は3次元スキャンとしては、LMI Technologiesも扱っているが、こちらも進化を続けており、新製品となる「Gocator 2500シリーズ」は前世代比で7倍高速となり、これまで世界最速とされてきた国内メーカーの製品比でも2倍の速度を実現したという。
加えて、LMIとしては、従来とは異なる手法を使って、将来的にはもっと広い視野に対応するべく研究開発を進めているとのことで、ソフトウェアの開発も含め、今後も成長を続けていく計画であるとする。
このほか、heliotisの超高速光干渉断層撮像3次元計測センサ「heliInspect」についても言及。搭載されている高速データ処理を行うセンサ「heliSense 3」の次世代品に位置する「heliSense 4」では、解像度が3.5倍の512×544ピクセルへと向上させる計画であることを明らかにした。
高い注目を集めるハイパースペクトルカメラ
上述のように3D関連に注力する同社であるが、それ以外にも近年はハイパースペクトルカメラへ注力するなど、新たなアプリケーション開発も進めてきている。
Specimのハイパースペクトルカメラについては、取り扱い開始からこの1年ほどで、リサイクル業界と食品業界にて明確な投資対効果が得られることが見えてきており、注目を集める存在になりつつあるという。
また、Specimは現在「FX50」と呼ぶ中赤外領域を測定できるハイパースペクトルカメラの開発を進めていることを明らかにし、発売されれば、さまざまな分野での活用が進むと期待を示したほか、Specimのポータブル型ハイパースペクトルカメラ「Specim IQ」についても言及。ポータブルということで、「ハイパースペクトルカメラをちょっと試してみたい、という人に向いている」と説明するほか、医療や犯罪捜査、建築業界などでの活用が期待されるとした。
加えて同社としては、赤外領域は従来InGaAsの化合物半導体を用いたセンサで対応してきたが、現在、Siをベースとして近赤外の測定を目指している企業が世界で3社居るとのことで、「いつできるかは分からないが、できればもっと身近にハイパースペクトルカメラが使えるようになる」とのことで、今後も技術トレンドの追跡を続けていくとした。
産業分野で進むFPGAによるAI活用
このほか、エンベデッドビジョンにもつながる話であるが、画像入力ボードに特化したグラバーメーカーであるSilicon SoftwareがFPGAによる画像処理開発環境の延長線上として、ディープラーニングに関するサービスに参入したことも明らかにした。
これは、民生品であるGPUの供給などに不安があるカスタマに向け、FPGAの活用を促進するもので、ニューラルネットワークのアーキテクチャから学習などまですべてを請け負うフルセットサービスと、すでにカスタマ側でアーキテクチャや学習なども出来た状態で、FPGAへの実装を支援する実装サービスの2種類のサービスが提供されるという。
ちなみにフルサービスの導入第1号顧客は日本の自動車関連メーカーで、塗装検査のスループット向上を目指したシステムを開発。PoCはすでに完了しており、2019年2月より本格稼動を開始する予定だという。
なお、リンクスでは今後も進歩していく技術トレンドを継続して世界の動きを見ていくことで、よりよい技術の日本への導入を進め、顧客の事業成長に貢献していきたい模様だ。