自然の状態ならそこに住んでいなかった生き物が、あちこちから運び込まれて定着している。外国から来る場合もあれば、国内の他の地域からやってくる「国内外来種」もある。たとえば、かつて北海道にいなかった本州のアズマヒキガエルは、今では函館や旭川など道内の各地で繁殖が確認されている。

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    写真1 アズマヒキガエル(写真と図は、いずれもカジラさんら研究グループ提供)

アズマヒキガエルの卵は、晩春の池で孵化(ふか)する。そこにはすでに北海道在来のエゾサンショウウオの幼生や、大きくなったエゾアカガエルのオタマジャクシがいる。アズマヒキガエルのオタマジャクシは小さくて動きが鈍いので、エゾサンショウウオやエゾアカガエルの子どもたちのえさになる。

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    写真2 エゾアカガエル

ヒキガエルは毒をもっている。アズマヒキガエルのオタマジャクシを食べたエゾアカガエルやエゾサンショウウオの子どもたちは、大丈夫なのだろうか。

それが、まったく大丈夫ではなかった。北海道大学の修士課程で研究していたエバンゲリア・カジラさん、岸田治(きしだ おさむ)准教授が水槽で実験したところ、外来のアズマヒキガエルのオタマジャクシを食べたエゾアカガエル、エゾサンショウウオの子どもは、その多くが死んでしまったのだ。とくにエゾアカガエルの致死率が高かった。

カジラさんらは、野外の池で3種類が出合うときのそれぞれの体の大きさを考慮し、その状態を再現するように水槽で実験した。外来のアズマヒキガエルと在来のエゾアカガエルのオタマジャクシを1匹ずつ入れた水槽、アズマヒキガエルのオタマジャクシとエゾサンショウウオの幼生を1匹ずつ入れた水槽を比べてみると、アズマヒキガエルを食べたエゾアカガエルは3日後の時点で100%が死んだのに対し、エゾサンショウウオは54%だった。エゾアカガエルのほうが、この毒に弱いようだ。

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    図 外来のアズマヒキガエルと在来のエゾアカガエルのオタマジャクシを一緒にすると、エゾアカガエルは3日後までに全数が死んだ(左から2番目)。しかし、エゾサンショウウオは半分しか死なない(右端)。

エゾアカガエルの食性も、不利に働いているらしい。エゾアカガエルのオタマジャクシは雑食性で、おもに藻を、そして生き物の死がいも食べる。一方、エゾサンショウウオの幼生は肉食性で、えさは生きた動物だ。えさを食べる様子を観察したところ、エゾアカガエルは、1匹のアズマヒギガエルを複数で一緒にかじることが多く、エゾサンショウウオの幼生は、生きたオタマジャクシを丸のみにしていた。アズマヒキガエルを食べて中毒死した死がいと同居させてみたところ、エゾアカガエルは7~8割が死んだのに対し、エゾサンショウウオは2割以下だった。雑食性のエゾアカガエルは、毒をもつオタマジャクシをみんなで食べ、さらに中毒死した死がいまで食べることで、アズマヒキガエルの毒の影響を強く受けるらしい。

岸田さんによると、毒をもつ動物を食べて被害を受けるのは肉食動物だというのが、これまでの「常識」だった。今回の実験結果は、野外でも、オタマジャクシのような雑食性の動物に、より大きな影響が出ている可能性を示している。国内外来種が生態系に及ぼす影響についての研究は少ないという。野外のアズマヒキガエルが他の動物とどう共存しているのか、あるいは共存できていないのか、気になるところだ。

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