「越境する」をテーマに科学技術振興機構(JST)が主催する国内最大級の科学フォーラム「サイエンスアゴラ2018」が9日、東京・お台場地域の日本科学未来館で開幕した。サイエンスアゴラは今年で13回目。10、11日は会場をテレコムセンタービルに移し、最終日の11日までの3日間、基調講演やキーノートセッション、ブース企画など、合わせて120の多彩な企画が進行する。

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    初日の会場となった日本科学未来館

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    日本科学未来館内に置かれた「サイエンスアゴラ2018」のボード

9日は午後1時から開幕セレモニーが行われた。JSTの濵口道成理事長が主催者を代表してあいさつ。1999年に世界科学会議で採択された「ブタベスト宣言」を引き合いに「来年は宣言から20年になるが宣言の4番目にある『科学における、社会のための科学』の持つ深い意味を、最近の猛暑や気候変動などを通じて肌で感じている。科学によってもたらされる光と共に影の部分もはっきり見える時代になった。一方、AI(人工知能)、IoTの発展によってこの社会は大きく変わろうとしている。私たちがこれからどう生きるか、どういう科学をつくって、どのような未来をつくっていくか。その中で私たちの幸福を実現できるのか、が非常に大きなテーマになっている。科学を科学者だけのものにしてはいけない。社会全体で共に科学をつくる、という活動がこれから大切になってくる。ことしのサイエンスアゴラはそうした活動のための『共創』という概念を大切にしている。3日間、多くの人にアゴラに参加していただき未来のために活動していただければと思います」と述べた。

続いて、来賓の白須賀貴樹・文部科学大臣政務官が「第5期科学技術基本計画では未来社会の姿としてSociety5.0の実現が打ち出されている。国連では『持続可能な開発目標(SDGs)』が設定されている。目指すべき社会の実現における科学技術的なアプローチは今後ますます重要になっている。2006年から毎年開催されているサイエンスアゴラはあらゆる人に開かれた科学と社会をつなぐ広場で、科学技術を活用してより良い社会を実現するための方策を論じ合う場だ」などと述べ、「共創」を重要なキーワードに掲げた今年のサイエンスアゴラに期待を寄せた。

  • 開幕セレモニーであいさつするJSTの濵口道成理事長

  • 来賓のあいさつをする白須賀貴樹・文部科学大臣政務官

この後、内閣府の佐藤文一官房審議官や日本経済団体連合会(経団連)産業技術本部の吉村隆本部長、韓国科学創意振興財団のチュ・ヨング理事がアゴラを評価し期待するあいさつをした。最後にJSTの 真先 正人理事が今年のサイエンスアゴラの開会宣言をすると会場から大きな拍手がわき上がった。

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    開幕セレモニーで開会宣言が行われた後のフォトセッション

開幕セレモニーに先立ってこの日の午前11時から「メディア向けセッション」(記者会見)が行われた。ここでは基調講演に登壇する「ANAホールディングス」デジタル・デザイン・ラボの津田佳明さん、深堀昂さん、梶谷ケビンさん の3人が出席、濵口理事長も同席した。今回の基調講演は 「あらゆる制限を超えて75億人をつなぐ挑戦」と題し、「アバター技術」の実用化に向けて挑戦してきた津田さんらによる意欲的な取り組みの紹介がメーンだ。アバターとは分身となるロボットなどと、自分の視覚・聴覚・触覚などを同期して遠隔操作をする技術。津田さんらは自分の業務範囲を「人をつなぐこと」であると位置付けて「移動を伴わない旅行」の実現を目指している。

このメディア向けセッションで深堀さんは「世界の75億人のうち飛行機に乗った人はわずか6%だ。残りの94%の人のこれからの輸送手段を考えると物理的な身体の移動から離れないと(多くの人の遠く離れた所への移動の)実現は難しい。アバターによって世界はつながれる。発展途上国の子どもたちも最先端の勉強を(母国から移動しないで)日本の大学で受けられるようになるかもしれない」などと語った。

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    メディア向けセッション。左からJSTの濵口道成理事長、ANAホールディングスの津田佳明さん、深堀昂さん、梶谷ケビンさん

「基調講演」に続いて国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成の先を見越して「未来の幸福をデザインする社会の共創」のあり方を探る「キーノートセッション」が行われた。「キーノートセッション」はSDGs達成の先の社会を具体的に見据えることでSDGsの大切さをあらためて共有する狙いも込められているという。セッションには国際機関「世界経済フォーラム」でAI・機械学習プロジェクト長を務めるケイ・ファース・バターフィールドさんや、社会的にインパクトあるイノベーションを目指して企業や自治体、官公庁が連携する「フューチャー・センター・アライアンス(FCA)」の関係者らが登壇。未来の幸福をデザインするために日本の研究開発や産業がどのような価値を提供できるか、などを探った。

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    基調講演に登壇した津田佳明さん

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    キーノートセッションで議論する登壇者

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    キーノートセッションの様子

今回のサイエンスアゴラは、「『共創』活動をクローズアップする」「次世代人材の活躍を促進する」「『科学技術に対する社会的期待や課題』に関する市民の声を収集する」という3つの目標を企画の柱にしている。2日目の10日から会場はテレコムセンタービルに移る。さまざまな交流企画が展開する場となる「アゴラステージ」もオープンする。

10日は午前中、「理系で広がる私の未来」と題するトークセッションが20階会議室で開かれる。このセッションは内閣府男女共同参画局とJSTが主催。宇宙飛行士の山崎直子さんや東京大学工学部4年の女子学生、企業で活躍する女性役員ら、内閣府が選定した「STEM Girls Ambassadors」が登壇。女性のロールモデルとの対話を通じて次世代のイノベーションを支えるために重要な「理系選択」後の未来について語り合う。11日には高校生と研究者、起業家が参加する「“未来総理”になって考える日本の未来」が予定されている。 10、11日はテレコムセンタービルの1階、3~5階を使って親子連れや学生ら若い人を含めた一般市民も共に考え、楽しめるよう工夫された大学、研究機関などが出展する70のブース企画が進行する。

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