富士通は11月12日、AI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(Zinrai」」を搭載した自治体職員向け保育業務支援ソフトウェア「FUJITSU 公共ソリューション MICJET MISALIO 子ども子育て支援V1 保育所AI入所選考」を開発し、提供を開始した。

新製品は、申請者の多様な要望や自治体が定めるきめ細かい基準に基づき、数秒で千人規模の児童の保育所割り当てを自動で行える自治体向け保育業務支援ソフト。入所選考事務の流れとしては、11月に入所希望申請、12月に申請情報入力、1月に入所選考、2月に結果登録・通知となり、新ソフトは1月の入所選考にAIを活用したものとなる。

富士通 公共・地域営業グループ 行政ビジネス推進統括部 行政第三ビジネス推進部 シニアマネージャーの河野大輔氏は「少子化への対応として2015年に『子ども子育て支援法』が施行されたが、自治体としては入所選考にかかる要因・時間が膨大であり、多様な希望に選考ルールが追いついておらず、入所結果の説明責任を果たしたいと考えている。一方、保護者は入所決定結果を早期に知りたいほか、細かい入所希望要件を叶えてほしく、納得できる説明結果を聞きたいというニーズがある」と指摘。

  • 富士通 公共・地域営業グループ 行政ビジネス推進統括部 行政第三ビジネス推進部 シニアマネージャーの河野大輔氏

    富士通 公共・地域営業グループ 行政ビジネス推進統括部 行政第三ビジネス推進部 シニアマネージャーの河野大輔氏

新ソフトは、ルールベースのAIであり、九州大と富士通の共同開発でゲーム理論を活用。利害が一致しない人々の関係を合理的に解決するゲーム理論を応用したZinraiの技術を用いて、優先順位に沿って可能な限り全員が高い希望を叶えられる千人規模の割り当てを数秒で導き出すという。

具体的には、児童ごとの情報(保育所利用調整指数、希望施設、きょうだいの入所希望など)や保育所の空き定員情報をはじめ、入所選考に必要な情報を子ども子育て支援システムから「MICJET MISALIO 保育所AI入所選考」に取り込み、同システムは「FUJITSU 公共ソリューション MICJET MISALIO」に加え、他社製品にも対応を可能としている。

また、きょうだいの入所の条件や希望保育所の優先順位など申請者の多様な要望、自治体が定める保育所利用調整指数に基づく優先順位、きめ細かな基準に基づき、優先順位に沿って全員が可能な限り高い希望を叶えられる入所選考割り当てを数秒で導き出す。

  • AIマッチングの概要

    AIマッチングの概要

従来、中核市などで延べ約1000時間かけていた数千人規模の入所希望児童の選考を数秒で完了できることで、保護者への決定通知を早期に行えるため、住民サービスの向上にもつながるとしている。なお、選考結果は電子データと帳票形式の両方で生成されるため、結果入力作業工程についても効率化できるという。

さらに、入所選考結果について、希望の保育所に入所できなかった場合などの理由を説明する支援機能を有しており、保育所の空き状況や希望順位、きょうだい入所条件に基づいて結果を説明できるため、住民からの問い合わせや窓口対応を円滑に行えるとともに、透明性の高い説明責任を果たすことを可能としている。

河野氏は「入所選考は場合によっては10日以上要することもあるが、新製品は複雑な選考パターン、ロジックをAIのアルゴリズムを瞬時に判断することで数秒で可能だ。ある自治体からは、希望する保育所の幅を増やすことが可能となり、待機児童の解消も期待できるのではないのかといった評価を得ている」と、そのメリットを説く。

現在、新ソフトは滋賀県大津市をはじめとした30以上の自治体で実証が行われており、2018年度中に同市が導入を予定し、東京都港区も2019年度中の導入を検討している。

自治体分野における富士通の強みとは?

富士通 パブリックサービスビジネスグループ 第二行政ソリューション事業本部 本部長の岡田英人氏は同社の自治体分野におけるAI・RPAの取り組について説明した。同社では、自治体向けにデジタルコンサルティングサービスとAIとRPAをはじめとしたデジタル技術を組み合わせることで行政サービスの改革、住民サービスの向上などを支援するという。

  • 富士通 パブリックサービスビジネスグループ 第二行政ソリューション事業本部 本部長の岡田英人氏

    富士通 パブリックサービスビジネスグループ 第二行政ソリューション事業本部 本部長の岡田英人氏

同氏は「われわれの強みとしては、住民情報、介護福祉、内部情報、公共事業など幅広い業務ソリューションの提供を可能とし、自体体業務に精通したSEと営業を全国に配置している。そしてZinraiやRPAツールであるAxeluteなどの先進技術を有している」と、胸を張る。

中でもRPAはクラス1「提携業務の自動化」、クラス2「非定形業務の自動化」。クラス3「業務の自律的なAI化」の3段階の自動化レベルのうち、クラス1の実績は増加しており、クラス1も実用段階を迎えているという。

これまでの事例としてRPA関連の事例では、A市における特別徴収異動届出書入力の効率化として、OCRで書類を読み込み、入力作業を自動化している。また、AI関連の事例としては東京都北区の介護事業者における給付費請求の適正性の分析と指導監督の効率化、大阪市の戸籍業務でのAIによる職員判断支援サービスなどを挙げていた。

そして、今回提供を開始した保育所AI入所選考は、さいたま市における実証実験の結果を反映したものだ。市内の8000人の匿名化データにより、実証実験で用いたゲーム理論による技術を実用化。岡田氏は「保育所に務める方は、本来であれば子どもと向き合う仕事のはずだが、何日も残業しながら選考の準備をすることに違和感を覚えており、共感した。このような業務を効率化することで本来の業務に取り組んでもらいたいと思い、製品化した」と、 述べた。

  • さいたま市における実証実験の概要

    さいたま市における実証実験の概要

また、同氏は「よくAIはブラックボックスだと言われるが、特徴はAIがどのように判定したか、なぜ選考から漏れたのかということや、選考事務をカバーすることで入所申請書にもニーズがあることがわかった。そのため、まだまだシステム化されていない分野もあるのだと感じた」との認識を示していた。