米国航空宇宙局(NASA)は2018年10月30日、太陽系の外にある惑星(系外惑星)を多数発見し続けてきた「ケプラー」宇宙望遠鏡の運用を終了すると発表した。観測を続けるのに必要な推進剤がなくなったためだという。
9年間の観測の中で、ケプラーが発見した系外惑星の数は2600個を超える。ケプラーの運用は終わったが、そのデータの分析はこれからも続き、さらに後継機「TESS」の運用も始まっている。
「ケプラー」宇宙望遠鏡
ケプラー(Kepler)は、大気のない宇宙で、系外惑星を発見することを目指した宇宙望遠鏡である。
系外惑星とは、太陽系の外にある惑星のこと。その存在は古くから予測されていたが、長らく、直接確認することはできなかった。しかし1992年、地上の望遠鏡によって初めて系外惑星が発見され、さらに1995年には、太陽のような恒星のまわりを回る系外惑星が発見された。
その最初の系外惑星が見つかった1992年、NASAエイムズ研究センターのチームは、系外惑星を探索できる望遠鏡を宇宙に打ち上げるという提案を行った。提案はすぐには採択されなかったが、研究チームは基礎研究や検出装置の試作などを続け、2001年に正式なNASAのプロジェクトとして採択。かくしてケプラーの開発が始まった。
ケプラーは「トランジット法」という方法を使って系外惑星を探索する。これは、恒星のまわりを回る惑星が、観測者から見て恒星の前を横切った際に、恒星の明るさがわずかに暗くなることを利用して発見するというもの。この方法は、惑星の大きさや質量、密度などを推定することもでき、さらに惑星の大気によって変化する恒星の光を分析することで、その大気の組成などもわかる。
ケプラーは2009年3月に打ち上げられ、地球と同じように太陽のまわりを公転する軌道に投入された。地球からはつねに1億kmほど離れつつ、追いかけるように飛ぶ。この軌道は、観測対象が地球によって隠れてしまうのを防ぐことができる。
そして、打ち上げからわずか1年で、さっそく最初の系外惑星を発見。このとき見つかったものは「ホット・ジュピター」と呼ばれる、恒星からきわめて近い距離を公転する巨大なガス惑星だった。さらに2011年1月には、地球のように岩石でできていると考えられる系外惑星が見つかった。
さらに同じ年には、水が液体で存在でき、生命の存在に適した温度環境の、いわゆる「ハビタブル・ゾーン」の中にある惑星があることが示されているという。いわゆる「ハビタブル・ゾーン」の中にある大きな系外惑星も発見。その後もハビタブル・ゾーンにある地球サイズの系外惑星も見つかるなど、続々と成果を出した。
一方で、2012年7月には、機体の姿勢を制御するための4基のリアクション・ホイールのうち1基が故障。その状態でも観測に支障はないため運用は継続され、同年11月からは延長ミッションも始まったが、2013年にはさらにもう1基が故障したことで、観測に必要な精密な制御ができないとして、一時は運用終了も検討された。
しかし運用チームは、生き残っている2基のリアクション・ホイールに加え、スラスター(小さなロケット・エンジン)の噴射の仕方を変えたり、太陽の光から受ける圧力を利用したりといった姿勢制御方法を編み出し、2014年5月からは「K2」と名づけられた新たな観測ミッションを続けていた。
当初の設計寿命である3.5年を大きく超えて運用されたケプラーだったが、続いてスラスターに使う推進剤のヒドラジンがなくなるという問題が襲った。ケプラーが系外惑星の探索を行う際には、観測する方向へ機体を正確に向けるポインティングが必要であり、そのためにはスラスターの噴射が必要不可欠だった。
すでに今年7月には推進剤切れの兆候を見せており、さらに10月初めには推進剤タンク内の圧力が大きく低下。NASAはこれ以上の運用は困難とし、30日をもって運用を終えることを決めた。
ケプラーはこれまでに50万個を超える恒星を観測し、その中から2681個の系外惑星を発見。また2899個の系外惑星の候補も見つけ、他の望遠鏡などによる確認を待っている状態にある。
ケプラーの観測は、私たちの銀河に存在する惑星に対する認識を大きく変えた。NASAによると、夜空に見える星の20~50%に、地球と同じように岩石が主体で、また同じ大きさをもち、なおかつハビタブル・ゾーンの中にある惑星が存在することが示されているという。
かつて、ケプラーのミッションを提案したひとりであるWilliam Borucki氏は「いまから35年前、私たちがのちのケプラーにつながるミッションを考えていた当時は、太陽系以外に惑星があることがわかっていませんでした。しかしいま、惑星はこの銀河でありふれたものであることを知っています」と語る。
今年4月には後継機「TESS」が打ち上げ
ケプラーの運用は終わったが、その観測データはいまも分析が続いており、これから10年以上にわたって活用されるという。
運用に携わったNASAの科学者Jessie Dotson氏は「この引退は、ケプラーの発見の終わりを意味しません。これからのデータの分析でどのような発見がもたらされるのか、そして、ケプラーの成果からどのような将来のミッションが生まれるのか、とても楽しみにしています」と語る。
今年4月には、ケプラーの後継機となる新しい系外惑星探査機「TESS」が打ち上げられ、すでに観測を始めている。
TESSは、ケプラーよりさらに広い範囲を観測し、より多くの系外惑星の候補を発見することを目指した衛星で、たとえばケプラーでは、宇宙のある限られた範囲しか観測することができなかったが、TESSではその400倍以上となる、この空の約85%におよぶ、ほぼ全天をくまなく観測することができる。
また、ケプラーは地球から300~3000光年離れた、遠くにある恒星の系外惑星しか発見できなかったが、TESSでは30~300光年と比較的近く、そして30~100倍ほど明るい恒星を探査することができる。地球から近くて明るいということは、それだけ地上の望遠鏡などで観測しやすく、観測結果の検証や詳細や分析がしやすいということを意味する。
さらに2021年には、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(JWST)の打ち上げも予定されている。JWSTは赤外線を使って天体を詳しく観測することができ、ケプラーやTESSによって見つかった系外惑星を観測することで、生命がいる兆候や痕跡が見つかるかもしれないと期待されている。
出典
・NASA Retires Kepler Space Telescope, Passes Planet-Hunting Torch | NASA
・Mission overview | NASA
・NASA’s First Planet Hunter, the Kepler Space Telescope: 2009-2018 | NASA
・Briefing Materials: NASA Retires the Kepler Space Telescope | NASA
・Home - TESS - Transiting Exoplanet Survey Satellite
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
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