京都大学発のEVベンチャーGLMは11月7日、京都府京都市伏見区にEVに特化した新社屋 兼 研究開発拠点(テクニカルセンター)を開設したことを記念し、パートナー企業や京都市長らが参加する式典を開催。併せて内部を報道陣に公開した。

  • GLMの新社屋 兼 研究開発拠点
  • GLMの新社屋 兼 研究開発拠点
  • GLMの新社屋 兼 研究開発拠点
  • GLMの新社屋 兼 研究開発拠点
  • 京都府京都市伏見区に開設されたGLMの新社屋 兼 研究開発拠点。オープン初日には2台のトミーカイラZZが出迎えてくれた

第2の創業となる新社屋の完成

同社は2010年4月に京都大学発のベンチャー企業として設立。以来、EVに関する技術ノウハウの蓄積や、実際に車両の開発を進め、2014年に初号車となるトミーカイラZZを出荷するなど、EVに関するビジネスの拡大を図ってきた。

  • トミーカイラZZ
  • トミーカイラZZ
  • 公開された世界に1台だけの限定カラー/装飾のトミーカイラZZ。特別仕様車として1台限定で販売されるという

今回の新社屋開設も、そうした同社の取り組みの中で進められてきたもので、京都市からのバックアップを受ける形で、京都大学や京セラなどのパートナー企業とも近く、将来、パートナーとなる企業もアクセスしやすい京都市内の用地取得を進めてきた。

GLMの田中智久COOは、これまでの8年間を振り返り、「毎年毎年、想像できないことが起こってきた。どういった波が次に来るのか。怖くもあり、楽しくもある日々を日々を過ごしてきた」と表現。今回の新社屋開設を機に、それまでを第1世代の創業期と位置づけ、これからは第2世代の創業期の時期になることを強調。自社での取り組みも少しずつ広くしていきたいと、意気込みを語った。

  • GLMの田中智久COO

    GLMの田中智久COO

そうした理念のもと、開設された新社屋は地上4階建て。1階は、「見せる開発現場」をコンセプトに、オープンな場として、自動車部品メーカーなどに車両開発の様子を見てもらい、互いにディスカッションして、相互の技術開発に向けたきっかけを作る場。2階は、自社のみならず、そうして生み出されたパートナーとの共同プロジェクトを実際に進める場で、最大4社に仕切りを分けることで、秘匿性の高い開発が可能。3階はGLMのオフィスで、現状はエンジニア約20名含めたおよそ30名のスタッフがここで事業活動や車両設計などを行う予定。広さ的には100名以上入る余地があり、同社としても「1-2年のうちにエンジニアの数を倍の40名程度まで増員したい」(田中COO)と事業拡大に向けたエンジニアの増員に意欲を見せる。そして4階はミーティングルームとなっており、各種の打ち合わせや会議などが繰り広げられる予定だという。

  • 新社屋の2階の様子
  • 新社屋の2階の様子
  • 新社屋2階の様子。パーティションで最大4つの部屋に分かれ、それぞれが互いに何をしているかは、分からなくすることができる

  • 新社屋3階の様子
  • 新社屋3階の様子
  • 新社屋3階の様子。まだ稼動した様子もほとんどない状態。一画には社員の名前が記されたプレートが置かれていた

新社屋の最大のポイントは、3階で3D CADなどを用いて設計を行い、2階に降りて、すぐに実車でその検証ができる、という点。こまわりの効く開発を可能にしたことで、効率の良い開発を目指すことができるようになった。

第2世代へと進化したプラットフォーム事業

GLMはトミーカイラZZの製造販売を中心に、2016年に公開したコンセプトカーG4をベースとした完成車の投入を目指した開発を進めているが、それ以上に重視するのがプラットフォーム事業だという。

ただし、このプラットフォーム事業も現在、第2世代へと変化しようとしている。田中COOも「これまでGLMが掲げていたプラットフォーム事業は、ベアシャシーにさまざまなボディを載せるというもの。複数年にわたって事業化の可能性を模索してきたが、実現性が低いという判断に至った。そうした中、どのように我々の技術を社会の役に立てるか、と考えたときに、新たなプラットフォーム事業の姿が見えてきた」と、その変化に至った背景を説明。現在のプラットフォーム事業は、パートナーがEVを用いた研究開発悪EVを製品として展開したい、というニーズを受けて、具体的なパートナーの思いや考えなどを聞くコンサルティングからスタートし、そこから得たアイデアや考え、思いを踏まえた企画を立案。場合に応じてコンセプトカーを製造したり、クローズドな研究開発車両環境を提供したうえで、各パートナーによるアプリケーション(コンポーネント)の実現に向けた共同開発も行えるし、自動車販売に向けた認証取得のノウハウなどもあるたえ、少量生産したアプリケーションを量産実証にまわす支援もできる。

さらに、同社のPRチームによるPR活動なども含めて提供され、実際に自動車メーカーやティア1、エンドユーザーの声をダイレクトにフィードバックして、研究開発につなげる、といったことも可能だという。

こうした取り組みを、すでに同社は4社でこうした取り組みを行っていることを公言している。1社目となったのは旭化成。2017年5月に旭化成の技術や素材を盛り込んだコンセプトカー「AKXY」を共同開発した。2016年4月よりコンセプトカーを作るという動きが旭化成内で出て、同年夏以降に、本格的に共同開発をスタート。2017年5月に発表に至ったという。

2社目は帝人との樹脂フロントウインドウプロジェクト。フロントウインドウにポリカーボネイト樹脂を採用してみるとどうなるか、というもので、こちらは2016年5月末より始動。樹脂フロントウインドウを搭載したトミーカイラZZは、すでに車両認証も取得済みで、2019年春の販売を目指して開発も最終段階に差し掛かっているという。

3社目は京セラ。同社のカメラや液晶ディスプレイなど、先端技術をトミーカイラZZに搭載したコンセプトカー開発プロジェクトで、2017年7月よりスタート。2018年に入り、横浜と名古屋で開催された展示会「人とくるまのテクノロジー展」や、IoT/CPSの総合展「CEATEC JAPAN 2018」でも多くの人からの注目を集めていたのは記憶に新しい。

そして4社目が東洋ゴムとの取り組みで、こちらは2018年1月よりスタートし、現在進行形となる。EV用の足回りモジュールの開発プロジェクトで、サスペンションやショックアブソーバーなどを路面状況に併せて自動制御し、座席の揺れを緩和するフラットライド(滑らかな乗り心地)を実現する電子制御式のエア式アクティブサスペンションとして、2020年の製品化を目指した取り組みとなっている。

  • 第1世代EVプラットフォーム
  • 第1世代EVプラットフォーム
  • 第1世代EVプラットフォーム
  • 第1世代EVプラットフォーム
  • 第1世代EVプラットフォーム。これまでの共同開発はこれを元に行なわれてきた

第2世代プラットフォームも開発

これまで、こうしたプラットフォーム事業は、トミーカイラZZのベース車両を活用して開発が行われてきたが、今回、あらたにさらなる車両やコンポーネント開発ニーズに対応することを目指した4シーターの第2世代プラットフォームも公開された。

車体は第1世代に比べ、一回りほど大型化したが、その分、機能なども盛り込まれており、さまざまな開発ニーズに対応することが可能となった。

田中COOは第2世代プラットフォームを用意したことについて、「部品メーカーのようなティア2といった存在は、これまで以上にいろいろな企業と協業をしていかなければ、量産車への新技術の適用が難しくなってくる。そうしたニーズに対して、ラボドリブンの我々のようなEVのサードパーティが介在することで、彼らもそうした技術の確認などが進みやすくなり、開発効率を向上させることにつながる」と、自社の立ち位置を交え説明。こうした環境の変化に併せて、会社が今、一番大切にしていることも従来の「面白いクルマを作る」というところから、「面白い」という言葉そのものへと変化したことにも触れ、クルマだけに限らず、パートナーと面白いものを作り出していくことで、世の中をパッと明るく変えていきたい。新社屋は、そうしたことを実現できるオープンイノベーションの場として、価値を提供できるものとなるとしていた。

  • 第2世代EVプラットフォーム
  • 第2世代EVプラットフォーム
  • 第2世代EVプラットフォーム
  • 第2世代EVプラットフォーム
  • 第2世代EVプラットフォーム
  • 第2世代EVプラットフォーム
  • 公開された第2世代EVプラットフォーム

GLMのEVプラットフォーム。最初に入ってくるのが第1世代、後から入ってくるのが第2世代