米Qlik Technologiesは、同社がグローバルで実施した学術研究「データリテラシー指数(Data Literacy Index)」の結果を発表した。それによると、データリテラシーの高い企業は企業価値(株式時価総額)が3億2,000万米ドルから5億3,400万米ドル高いことが明らかになったという。
企業のデータリテラシーとは、企業の中のさまざまなレベルの人が意思決定のためにデータを読み取り、分析し、活用する能力と、そのデータ知識を組織全体に伝え生かす能力の両方を意味する。
企業データリテラシー・スコアは、IHS Markitとウォートン・スクールの教授によって開発されたもので、(1)従業員のデータスキル(人的資本)、(2)データ主導の意思決定、(3)データスキルの拡散度の3つの要素からなる。これら3つの要素を測定できるようにアンケートを作成し、アンケートの質問ごとに各選択肢を数値化するスケールを定め、3つの要素のスコアを合計する。
(1)従業員のデータスキル(人的資本)には、データリテラシーを持った人の採用や社員教育なども含まれ、(2)データ主導の意思決定は、多くの人に権限を委譲して、企業がデータリテラシーをもとに、意思決定を行っているかどうか、(3)データスキルの拡散度は、データ主導の意思決定が社内の多くの部署で行われているかどうかで、スキル分散やデータの分散などが含まれるという。
今回の調査は2018年6月27日から7月18日まで、従業員数500人以上のグローバルの上場企業を対象に実施され(6割が5000名以上の大企業)、銀行・金融、製造、小売、輸送、医療、エネルギー、建設、ユーティリティ、通信などさまざまな業種が含まれている。実施された総数は604で、米国とヨーロッパが200、アジアが204となっている。
調査によれば、企業の意思決定者の92%が「従業員のデータリテラシーは重要だ」と考えている一方で、「自分の会社は従業員がデータリテラシーを高めるよう明らかに奨励している」と答えた人は17%にとどまったという。
データリテラシー指数が上位3分の1に入っている組織は、企業価値が3~5%高くなっており、高いデータリテラシーは粗利益、資産収益率、配当、利益率など、他の業績指標に対しても正(+)の相関を持つことが明らかになったという。
企業の意思決定者の大多数は、従業員のデータリテラシーは欠かせないと考えているが、データの読み取り、処理、分析、通信に十分に自信があると答える人は、世界の労働力の24%で、「データリテラシーの高い従業員を雇う計画がある」と答える企業が63%に及ぶが、データリテラシー研修を実施している企業は全体の34%で、データリテラシーの高い従業員に高い給与を払っている企業は36%にとどまるという。
クリックテック・ジャパン カントリーマネージャーの北村守氏はデータスキルについて、「とくに若い人(16~24歳)の約8割はデータリテラシーがないと答えており、若い人のデータリテラシーが低いことがわかった」と説明した。
また、ほとんどのビジネスリーダーが、データは自らの業界にとって重要(93%)、自社の現在の意思決定にとって重要(98%)だと認めているが、実際にデータにもとづいて意思決定しているかについて、今回調査したデータリテラシーの3要素のなかで最も低いスコアになっているという。
地域別では、ヨーロッパは企業のデータリテラシーの成熟度がどの地域よりも高く、特にイギリス、ドイツ、フランスで企業のデータリテラシー・スコアが高くなっているという。これよりやや低いのが米国とアジア太平洋地域で、両者はほとんど違いがないという。
アジア太平洋地域はこの5年間でデータの重要性(の認識)がもっとも大きく伸びている地域だが、データ活用の方法について変革を行った企業は10%で、データリテラシーの高い人に高い給与を払おうとする企業は20%と、データの重要性を理解しながらも、企業のやり方を変えた企業は少なく、労働力の現状と企業の扱いとの間に大きなギャップがあることが分かったという。
その中でも、シンガポールは世界一データリテラシーの高い国で、企業データリテラシースコアは84.1と、イギリスの81.3、ドイツの79.0、米国の72.6を上回り、他のアジア太平洋地域ではインドが76.2、オーストラリアが72.4、日本が54.9で世界で一番低いスコアになったという。業種別ではアジアにおいては、金融のスコアが高く、米国は交通・運輸、ヨーロッパでは保険が高いという。
日本のデータリテラシーは、従業員のデータスキルは他の国と差がないが、データ主導の意思決定やデータスキルの拡散度が低いという。
この背景について北村氏は、日本は合議制でものごとを決めているため、権限を分散して決定していくことが難しい点や、稟議などのボトムアップ文化が背景にあるとした。ただ、同氏は、データスキルの拡散度には他の地域と差がついている部分なので、改善の余地があるとした。
これらの状況を踏まえ同社は、アクセンチュアやコグニスなど他の企業と一緒にデータリテラシーを高める取り組み「データリテラシープロジェクト」を行っている。このプロジェクトでは、教育プログラムの提供、アセスメントツールの提供、データリテラシーの高める取り組みの成功事例の紹介などをしている。また、企業向けに自社のデータリテラシーのレベルを測定できるツールを年明けに提供する予定だという。
このプロジェクトについて北村氏は、「クリックはBIツールの会社だが、ツールはツールであって、使う人の動機がないと使ってもらえない。そこを突き詰めていくと、データリテラシーが確立した世界を構築することがわれわれの社会貢献であり、会社の意義だ。データドリブンな世界を構築しようというのは、どの企業も掲げているが、現実の世界とはギャップがあり、それがデータリテラシープロジェクトを立ち上げた理由だ。このプロジェクトはまだ始まったばかりで、今後、参加企業を増やし、コンテンツも充実させていく。また、データリテラシーが低い人は、データをどのように活用していけばいいのかわからないというのが悩みなので、データリテラシーをAIによって解決する取り組みを6月から始めている。このようにデータリテラシーをテクノロジーによって解決する取り組みも進めていきたい」と語った。
そのほか、データを利用するための準備段階もサポートするという。
「企業はデータレイクを作って、データ活用に向けた取り組みを行っているが、残念ながら、貯めているだけの状態だ。データを活用するためには、データを加工し、分析するための準備も必要になる。そこでわれわれは、データを貯めていく段階からAnalytics Readyの状態になるようなツールの提供も行っていく。これは、7月に買収したPodium Dataの製品によって実現できる。これは、データレイクのデータをカタログ化して整備する製品だ。これを年明けからData Catalystとして販売を始めていく」(北村氏)