11月1日に、エアバスのアジア・北米担当マーケティング バイス・プレジデントを務めるヨースト・ヴァン・デル・ハイデン氏による、エアバス製民航機の最新状況に関するメディア・ブリーフィングが行われた。ブリーフィングの内容については他にも記事が出回ると思われるので、本稿では視点を変えて、「民航機ビジネスとは」という観点から記事をまとめてみたい。
顧客が何を求めているか
今回のメディア・ブリーフィングでは、エアバスの民航機を対象とする、受注・納入の状況説明が主なテーマとなった。それと関連する話として、民間航空需要の動向や、それを受けた民航機の市場予測といった話も出てくる。つまり「こういう市場のニーズに対して、エアバス製品はこう応えられます」という図式だ。
いうまでもないことだが、アジア太平洋諸国の経済が成長して人の往来が増えれば、最終的には旅客機の需要につながる。また、日本も含めて多くの国でLCCの新規立ち上げや拡大があり、これも旅客機の需要を増やす方向に働く。
そうした中でエアバスやボーイングといったメーカーがメディア・ブリーフィングを開き、報道関係者に対して自社の製品の販売状況や優位性について説明するわけだが、そこで登場するアピールポイントに着目したい。
「こんなハイテクを活用しています」なんていう話は滅多に出てこない。基本的には経済性の話に終始しているのが特徴である。なぜなら、旅客機というのはエアラインにとってみれば「利益を出すための道具」である。より少ない運航経費で、より多くの旅客や貨物を運ぶことができれば、収益が向上する。
それを示すために多用される指標がSMC(Seat Mile Cost)である。「1座席・1マイルあたりの運航経費」のことだ。機体の規模も運航内容も多種多様だから、燃料消費をはじめとする運航経費の絶対額では比較の材料にならない。そこで、座席数と飛行距離で割り算をする。
同じ機体で同じ燃料消費でも、より多くの乗客を乗せることができればSMCは低下するし、定員が同じで燃料消費を低減してもSMCは低下する。どちらのアプローチをとるかはエアラインの経営方針次第だが、「より少ない運航経費で、より多くの旅客や貨物を運ぶことができる機体が求められる」という本質は同じである。
機体の軽量化、エンジンの燃焼効率改善や燃費改善、空力特性の改善と空気抵抗の低減はいずれも、エアラインにとって最大のコストである燃料消費の低減につながる要素である。
例えば、主翼端のウィングレットは、「格好いいから」付けているものではない。燃費低減につながるから付けているのである。エアバスA350やボーイング787が炭素繊維複合材料製の機体構造を採用したのは、「ハイテク素材だから」ではなく「軽量化につながるから」である。
また、機体の構造やシステムが、できるだけ簡素で信頼性の高いものになれば、可動率の向上と整備コストの低減につながり、これも収益の改善に寄与する要素となる。
最近の旅客機は、以前と比べると高揚力装置を簡素な構造にまとめる傾向があるが、これも簡素で信頼性の高い構造を追及する一例といえる。複雑精緻なメカニズムは、そうする必然性があるのでない限り、求められない。得られる結果が同じならシンプルなほうがいい。
もちろん、快適性も顧客を引きつける上で重要な要素であるから、これも無視はできない。ことに客単価が高いビジネスクラスでは、快適性・利便性を巡る競争も熾烈である。ただし、これは機体メーカーの競争というよりも、内装品メーカーの競争といえるかもしれない。
ただ、定員との兼ね合いもあるので、1人当たりのスペースを増やして快適性を高めました、というアプローチはなかなかとりづらい。珍しい例外は、日本航空の国際線エコノミークラス「SKY WIDER」ぐらいだろうか。もっとも、エアバスもA350では「エコノミークラスでも座席幅が18インチ(約457mm)ある」とアピールしている。
快適性ということになると、機体メーカーは「エンジンの騒音低減」をアピールすることが多い。これは機体の内外・双方にメリットがある。第一、騒音規制に対応できない機体は運航そのものができなくなる。
A350や787は腐食しにくく、軽くて丈夫な炭素繊維複合材料を導入したので、機内の気圧を高めたり湿度を高めたり、といった点をアピールするようになったが、これも快適性のアピールに分類できる。
ただしそこでも、アピールするのは最終的にもたらされる「快適性」であって、素材はあくまでそれを実現するための手段。筆者のようなメカマニアなら「ハイテク機だ」というだけで選んで乗ってくれるかもしれないが、普通の乗客はそうではない。