SAPは10月23日・24日にかけてスペイン・バルセロナで開催した「SAP TechEd Barcelona 2018」で、RPA市場に参入することを発表した。業務アプリケーションベンダーである同社がRPAを提供するという点で注目に値するが、その戦略はどのようなものか。SAP Leonardoでバイスプレジデントを務めるDavid Judge氏に話を聞いた。
--今回、RPAを提供する計画を発表したが、その戦略について教えてほしい--
Judge氏: 「SAP Intelligent Robotic Process Automation」はマニュアルで行っている作業を自動化するもので、SAP Cloud Platformの上に構築している。SAPシステムの上に自動化レイヤを作ることで実現しており、SAP以外のシステムも対象にできる。2~20ぐらいのシステムにまたがる作業について自動化を作成できる。
特徴は、SAPのERPの一部として事前に構築した自動化の部品を提供する点。SAPシステムとAPIレベルで統合できるため、最新のS/4 HANAが出ると、自動化のフローもそれに連動する。
SAPは「インテリジェンス・エンタープライズ」を掲げており、ここで自動化は重要な役割を果たす。RPAはその1つとなる。S/4 HANAなど複数のチームが関与しており、社内でも実験的に利用している。日本をはじめ世界の顧客からの要望も多く、われわれはRPAに大規模な投資をしている。
RPA市場が確立されたのは5年前、市場規模は年々拡大しており、良いタイミングで参入できた。
--RPA市場はすでにUiPath、Automation Anywhereといった専業ベンダーがシェアを確立しているが、SAPのRPAの差別化ポイントは?--
Judge氏: 既存のRPAソリューションはGUIを通じた統合により自動化を実現する。具体的には、人間の作業と同じになるように、画面の前に座っている人がやっていることを模倣するものを作る「スクリーンスクレイピング」を用いているが、これはよい方法ではない。なぜなら、基盤のシステムに変更があると、自動化が損なわれるからだ。
顧客が求めているのは、安定した自動化、将来も使える自動化だ。SAP Intelligent Robotic Process AutomationはSAPシステムと密に統合されており、アップグレードの担当・管理チームが作成したAPIを使っているため、アップグレードがちゃんと反映される。ビジネスルールの変更など、フローの変更が多少あるかもしれないが、自動化が壊れるようなことはない。安定性と将来も約束されているという点は差別化の大きなポイントだ。
加えて、SAP Cloud Platformをベースとするので、さまざまな技術を利用できるほか、会話型のAI、機械学習などを統合しており、新しい世代のRPAと言える。
--RPAを含む自動化全体の取り組みについて教えてほしい--
Judge氏: 自動化ではRPAに加え、機械学習、会話型AI「Conversational.AI」も提供する。
Conversational.AIは2018年1月に発表したRecast.AIの買収により獲得した技術だ。チャットボットなどの自然言語を使うための技術で、SAPのソリューションに自然言語処理を組み込むことができる。
RPA、機械学習、Conversational.AIを利用することで、コンタクトセンターの例では、やってきたリクエストに対して対応から解決までライフサイクル全体を自動化できる。例えば事業部側から新入社員のためにスマートフォンをリクエストするとすれば、会話によりリクエストの中から情報を得て、SAPシステムに問い合わせながらスマートフォン支給が認められているのかの確認、承認を得るために誰に問い合わせるのか、などを調べ、回答を返すという行動をとることができる。
--SAPのRPAなどを利用すると、どのぐらい自動化できるのか? システムが人の手を離れることで、信頼性などのチェック機構はどうなるのか?--
Judge氏: 企業のプロセスには、20から30ものシステムをまたぐような複雑なプロセスだが滅多に利用されないというハイバリュー型もあれば、5つ程度のシステムしか利用しないが月に数万回実行されるようなハイボリューム型もある。
どのぐらい自動化するかは顧客により異なるが、SAPでインテリジェントERPを進めるFranck Cohen(デジタルコア組織を率いるプレジデント)は、今後数年でERPが関連するマニュアルな作業を最低50%自動化することを目標にしている。到達にはかなりの自動化が必要で、プラットフォーム内部では機械学習、システムの周辺ではConversational.aiやRPAを使うことになる。
自動化は、正しいことを高速に処理することが目的なので、透明性が重要だ。SAPではアナリティクスとダッシュボードにより、自動化が正常に機能しているかを把握できる。
ビジネスユーザー側に自動化機能を提供するだけでは不十分で、定期的な見直しが必要だ。正常に動いているか、どのぐらい(頻度、回数)動いているのか、この自動化がそもそも必要かなど、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)と同じだ。SAPが社内でやってみてわかったことは、自動化により時間、手間、コストが解放されるので、BPRが可能になる。
--SAP Intelligent Robotic Process Automationの提供はいつ頃になるのか? 今後の計画は?--
Judge氏: RPAの最初のターゲットはS/4 HANAだ。財務や会計がRPAに適しているからだ。その後、石油・ガス、公益、銀行など他の事業にも適用していく。Ariba(BtoBネットワーク)、SuccessFactors(人事)、Concur(経費精算)などにも広げる。
現在、アーリーアダプター顧客の顧客とともに実験を行う段階で、一般提供は2019年第1四半期になる予定だ。具体的な市場戦略を数週間以内に発表する予定だが、パートナー企業としっかり進めていきたい。