三菱重工業(MHI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2018年10月29日に、JAXAの地球観測衛星「いぶき2号」などを搭載した、H-IIAロケット40号機の打ち上げを予定している。

2001年にデビューしたH-IIAは、いよいよ40号機という大台に入り、ひとつの節目を迎えた。これまで製造や打ち上げを続ける中で、さまざまな知見が得られた一方、今後のさらなる打ち上げと、次世代ロケット「H3」に向けて、課題も見えてきた。

  • H-IIA 40号機

    製造中のH-IIAロケット40号機 (筆者撮影)

H-IIAロケット40号機

H-IIAロケット40号機は、JAXAの温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」を打ち上げる。

「いぶき2号」は2009年に打ち上げられた「いぶき」の後継機で、温室効果ガスとして知られる二酸化炭素、メタンをより精密に観測するとともに、「いぶき」にはなかった一酸化炭素の吸収・排出源を特定することも目的としている。これにより、気候変動の予測精度の向上や、地球システムの変化の早期検出、また人為的な温室効果ガス排出の削減状況や自然吸収源の変動状況の把握を目指す。

打ち上げるロケットの型式は「H-IIA 202型」と呼ばれる、固体ロケット・ブースター(SRB-A)を2本装着した、最も標準的な構成を用いる。

すでにロケットは製造や試験を終え、9月21日に飛島工場から出荷され、同23日に種子島宇宙センターに搬入。他社が製造する部品も搬入済みで、現在までの組み立て作業も順調に進んでいる。

  • H-IIA 40号機

    製造中のH-IIAロケット40号機の第1段機体 (筆者撮影)

また、ロケットの打ち上げ能力に余裕があることを利用し、アラブ首長国連邦のドバイ政府宇宙機関(MBRSC)の地球観測衛星「ハリーファサット(KhalifaSat)」も搭載する。ハリーファサットは同国初の国産衛星で、韓国の協力や部品供給を受けつつ、全体の開発や試験はMBRSC側で実施。質量350kgの小型衛星で、分解能70cmの光学センサーを搭載している。

さらに東北大学、九州工業大学、静岡大学、そして愛知工科大学がそれぞれ開発した、4機の小型衛星も搭載し、打ち上げられる。

「いぶき2号」などを載せたH-IIA 40号機は打ち上げ後、南の方向に飛行し、高度約600kmの、地球ほぼ南北に回る太陽同期準回帰軌道に各衛星を投入する。この軌道は衛星に当たる太陽光の角度、また衛星が観測する際に地表に当たる太陽光の角度もつねにほぼ一定で、なおかつ数日ごとに同じ地域の上空に戻ってくることができるという特徴をもち、地球の定常的な観測に適している。

なお、今回はすべての衛星をほぼ同じ軌道に投入するため、H-IIA 37号機で行われたような、各衛星をそれぞれ異なる軌道に投入することは行わない。

打ち上げ日は2018年10月29日の予定で、打ち上げ予定時刻は13時08分00秒から13時20分00秒までの12分間となっている。また打ち上げ予備期間として、翌30日から11月30日まで確保されている。

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    製造中のH-IIAロケット40号機の第2段機体と段間部(黒い部分)。段間部には搭載する衛星のロゴが貼られている (筆者撮影)

通算3件目の商業打ち上げ

ハリーファサットの打ち上げは、三菱重工がMBRSCから受注したもので、同社とH-IIAにとって通算3件目の商業打ち上げとなる。

三菱重工は2007年に、JAXAからH-IIAの技術の移転を受け、打ち上げ輸送サービス(商業打ち上げ業務)を開始。2009年には韓国航空宇宙研究院(KARI)から「コンプサット3(KOMPSAT-3)」の打ち上げを受注し、2012年にJAXAの地球観測衛星「しずく」との相乗りで打ち上げに成功した。

これを皮切りに、2013年にはカナダの衛星通信会社テレサットから、通信衛星「テルスター12V」の打ち上げを受注。2015年に打ち上げに成功した。同社は衛星通信業界の大手のひとつで、また三菱重工にとって相乗りではない純粋な商業打ち上げは初めてであったことから、大きな話題となった。

そして同じ2015年には、MBRSC(当時はEIAST)から今回のハリーファサットの打ち上げを受注。さらに翌2016年には、同じくMBRSCから火星探査機「アル・アマル(al-Amal)」の打ち上げも受注している(2020年打ち上げ予定)。そして2017年には、英国の衛星通信会社インマルサットからも打ち上げ契約を取りつけている(2020年打ち上げ予定)。

少しずつとはいえ、着実に打ち上げ受注を積み重ねることができている理由として、三菱重工の小笠原宏(おがさわら・こう)氏は「打ち上げ成功率が高いこと、そして『オンタイム打ち上げ』率が高いこと」を挙げる。

「H-IIAの打ち上げ成功率は、世界の中でも1、2位を争うほど高い。さらにH-IIAは、打ち上げ日を一度決めると極力変えず、決まった日にきちんとあげる『オンタイム打ち上げ』率も高いという付加価値もある。これらが評価された結果だと分析している」(小笠原氏)。

ちなみに他のロケット会社では、Overselling、すなわち実際に打ち上げができる最大数を超えて受注を取る傾向があり、その結果、ちょっとしたことで打ち上げ時期が遅れてしまう。一方三菱重工では、そうしたことが起こらないよう、確実に守れる打ち上げ時期を決め、顧客に提示しているという。

とくにアル・アマルのような火星探査機は、打ち上げが可能な時期(ウィンドウ)が限られており、ある時期を逃すと、次に打ち上げができるのは約2年後にまでずれてしまう。また、インマルサットのような衛星通信会社の衛星も、顧客に通信、インフラのサービスを提供している以上、打ち上げが遅れることでサービス開始時期も遅れることは避けたいという事情がある。

そうした点から、"時間が守れるロケット"であるH-IIAが、徐々に信頼を獲得し、選ばれ始めているのでは分析しているという。

  • 三菱重工の小笠原宏氏

    会見する、三菱重工の小笠原宏氏 (防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 副事業部長) (筆者撮影)