世界唯一のEUV露光装置サプライヤでもあるASMLと半導体ナノテク研究機関imecは、3nm未満の半導体プロセスの開発準備に向け、近い将来、imecキャンパスに「High-NA EUV Research Laboratory(高開口数極端紫外線リソグラフィ研究所)」を設立することで合意したことを明らかにした。この合意に至る経緯とEUVリソグラフィを取り巻く半導体業界の状況を探ってみよう。

両社は過去30年にわたって、先端リソグラフィ技術の研究開発で協業を続けてきており、現在の両社の繁栄はこの協業に大きく依存しているといわれている。これまでも両社は段階的に協業を発展させてきており、2014年にimecキャンパス内にAdvanced Pattering Research Centre(先進回路パター二ング研究センター)を設立している。

そこでは、ASMLから異動してきたリソグラフィ・プロセス開発エンジニアとimecのプロセス開発エンジニア(合計100名余り)が一緒に、imecの半導体微細化プロセス・インフラを活用して、EUVリソグラフィ装置(開口数NA=0.33)の量産導入を目指してプロセスの共同研究を行っている。

先端CMOSデバイス製造のためのリソグラフィを最適化するとともに、その要求にこたえるためにEUV光源やクリーントラック(コーターデベロッパ)や測長SEM、レジストや現像液やペリクル膜はじめ、さまざまな関連装置、材料メーカーが一体となったエコシステムを構築する活動も行っている。 

EUVリソグラフィのスループットが目標の125WPHへ

ところで、EUVリソグラフィは光源開発が遅れて、スループット(1時間当たりのウェハ処理枚数;WPH)がなかなか上がらず、量産導入が長年にわたって見送られてきた経緯がある。しかし、最近になって、ASML社内では出力250W(実測値は246W)の光源を用いて140WPH(ペリクル膜不使用時のチャンピオンデータ)が実現されたとしており、250Wで150WPH以上を次のターゲットとしている。

一方、imecでは、EUVおよび液浸ArF露光装置の従来モデルに替えて、最新鋭のEUV露光装置であるTWINSCAN NXE:3400Bと液浸ArF 露光装置であるNXT:2000i(ともにASML製)を2019年に300/450mmクリーンルームに設置し、当面の半導体業界の目標である125WPH(ぺリクル膜使用時)を実現した後、155WPHを目指して研究を続ける予定である。

半導体各社がEUVによる量産導入を準備

EUVリソグラフィに量産導入のめどが立ってきたこともあり、複数の先端プロセスに興味を持つ半導体メーカーが量産ラインへの導入を検討しはじめているようだ。台湾TSMCは量産用EUVリソグラフィの実用化を待たずに、マルチパターニング液浸ArFリソグラフィを用いる形で先行して7nmデバイスの量産を開始。Appleはじめ先端プロセスを活用したい顧客からの注文を独り占めにしているが、2019年には EUVリソグラフィを用いたリスク生産を開始し、2020年に本格量産に移行する予定でもある。

一方、韓国Samsung Electronicsは、7nmプロセスには最初からEUVリソグラフィを適用するとの方針だったために、7nmの量産でTSMCに後れを取ってしまったが、最近EUVを用いたリスク生産を始めたようである。現在、韓国・華城(ファソン)にあるシステムLSI工場内にEUVリソグラフィを採用した量産ラインを建設中であり、2020年の稼働を見込んでいる。それまでは、比較的低スループットの状態でリスク生産ということになろう。

かつてもっとも熱心にEUVリソグラフィ導入をけん引してきたIntelはこのところ微細化の遅れが目立ち、EUVの生産導入は2021年以降になるのではないかと業界関係者は見ている。

DRAMにもEUV導入の可能性

ここまではロジックICへのEUV適用についての状況あるが、韓国の2大DRAMメーカーであるSamsungとSK Hynixは1Y-nm(10nm台なかば)以降のDRAM量産にEUV採用の方向で検討を始めている。一方、中国勢の関心も高く、中国最大のファウンドリSMIC(上海)や新興DRAMメーカーであるInnotron(合肥)もASMLと量産用EUV装置入手の交渉をしているようである。

日本には、かつてEUVリソグラフィの基盤技術研究開発の国家プロジェクトやコンソーシアムが名前を変えながら長年にわたり存在したが、ほかの国家プロジェクトやコンソーシアム同様に日本の半導体産業の復権に貢献できずに消滅した。しかも日本の半導体企業は先端ロジックやDRAMの製造からすでに撤退してしまっているのが現状であるため、日本勢は蚊帳の外に置かれてしまっている状況にある。

ASMLとimecは3nm未満に向けた露光技術の開発へ邁進

こうした状況の中、ASMLとimecは、リソグラフィ分野における協業をさらに一歩進めて、3nm未満のプロセス開発の準備に向け、近い将来、imecキャンパスにHigh-NA EUV Research Laboratoryを設立することで合意した。ただし、設立時期は未定である。2020年代に、従来のNA=0.33のNXE:3400シリーズに替えてNA=0.55のNXE:5000を設置してさらに露光の解像度を上げて、3nm以降のデバイス製造のためのリソグラフィ技術を開発するとともに、関連する装置・材料メーカー全体を取り込んだエコシステムを構築するとしている。

ASMLの社長兼CTOであるMartin van den Brink氏は「私たちは、imecと長年にわたりリソグラフィ技術開発の協業を行ってきたが、この度、imecと次のステップである高NAのEUVリソグラフィの共同研究へと踏み出すことができることを喜んでいる。2020年代にimecで行われる高NA EUVリソグラフィ研究開発の成果が、マイクロチップのコストと性能を改善し、半導体業界や世界を取り巻くビジネス環境に利益をもたらしてくれるだろう」と述べている。

  • EUV露光装置「TWINSCAN NXE:3400B」
  • EUV露光装置「TWINSCAN NXE:3400B」
  • imecの300/450mmクリーンルームに2019年に搬入される予定のASMLの最新鋭EUV露光装置「TWINSCAN NXE:3400B」の外観(上)と内部構造(下)。光源からたくさんのミラーで反射しながらウェハ表面上へ照射されるEUVの光路が紫色で示されている。imecは現在、装置搬入のためのクリーンルーム・インフラを整備中だという (出所:imec/ASML)